音は聞こえるのに理解できない聴覚失認
~工夫が求められる緊急災害放送(兵庫県立大学自然・環境科学研究所 三谷雅純客員教授)~
地震や台風といった自然災害時のテレビなどの緊急放送で、脳卒中などの後遺症のため音声が聞こえても内容が理解できない場合がある。分かりやすい伝え方について、兵庫県立大学自然・環境科学研究所(兵庫県三田市)の客員教授三谷雅純さんに対処法を聞いた。
聴覚失認の人にも分かりやすくする工夫を
▽難聴者と別の対応を
緊急ニュースや重要な会見では、手話通訳に加え、発表者の口元が見える透明なマスクが使われることもある。こうした聴覚障害者への配慮が進む一方、病気の後遺症の人への配慮は十分ではない。
人が耳にする言葉や音楽、それに水の流れのような環境音は、聴覚情報として神経を伝わって脳の特定の部位で処理される。別の部位で知識や記憶と照らし合わせるなど、脳が総合的に働き、「あのラブソングだ」「シャワーの水が止まっていない」と認知する。
しかし、脳卒中などで脳の一部の機能が侵されると、認知までの過程がうまくいかず、相手の声や音楽が聞こえても、理解できない。「聴覚失認」と呼ばれ、対象は話し言葉、音楽、環境音と人によって異なる。
三谷さんは「言語音の認知が困難な人は、緊急災害放送の内容が理解できず、適切な行動につながらない可能性があります」と指摘する。難聴の人とは別の対応が必要として、分かりやすい緊急災害放送のあり方を研究している。
▽ゆっくり読み、字幕も
聴覚失認の後遺症がある人を含む27人のボランティアに人の肉声とロボットのような合成音声を聞いてもらった実験では、人の肉声の方が分かりやすいという結果だったという。
三谷さんは「チャイムがあれば、より多くの人が放送内容を理解しようとするので、まずチャイムを鳴らして注意喚起し、アナウンサーはゆっくりと滑舌(かつぜつ)よく話してほしい」と要望する。
実験では、合成音声でも、同時に画面に意味を表現する挿絵や漢字仮名交じり文を表示すると分かりやすくなった。漢字は見た目で意味を把握できるからだ。
そのため、アナウンサーが読み上げる文章が字幕で表示され、発声と同時に文節ごとに色調を反転させたハイライト表示のような放送方式が望ましいと言える。
文字の余白や行間が、意味のまとまりを崩さない程度に広がって表示されると、さらに分かりやすいという。三谷さんは「受け手が視覚と聴覚という多感覚を統合して、情報を把握できるような伝え方が大切です」と強調する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2022/03/10 05:00)
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