教えて!けいゆう先生

医師と患者の考えがすれ違わないために
~がん治療で大切な薬の統計データの意味~ 外科医・山本 健人

 がん治療の現場では、「薬の効果」に関する解釈の違いから、医師と患者さんの考えがすれ違うことがあります。

 例えば、ある抗がん剤がどのくらいの効果を持っているかについて考えるとき、医師はしばしば、統計学的な数値を頭に思い描きます。

コロナ禍に奮闘する医師や看護師など、医療従事者に敬意と感謝の気持ちを示すために病院の上空を通過する航空自衛隊・曲技飛行チーム「ブルーインパルス」。あれから2年近くがたった=2020年5月29日、東京都世田谷区(本文と直接関係はありません)【時事通信社】


 ◇効果の数値いろいろ

 具体例として、「奏効率」という言葉があります。

 簡単に書くと、大勢の同じ条件の患者さんに薬を投与したとき、どのくらいの割合の人に効くかを表す数字です。

 また、「5年生存率」という言葉もあります。

 同じ条件の患者さんを集め、その経過を追跡したとき、治療を始めてから5年後にどのくらいの人が生きているかを示す数字です。

 この数字を比べることで、治療の効果を比較することもよくあります。

 似た概念を持つ数字は他にも多くあります。

 「5年無再発生存率」というのもあります。読んで字のごとく、治療開始から5年後にどのくらいの人が「再発せずにいるか」を示す数字です。

 抗がん剤治療によって再発せずにいられる人が多いなら、それはよく効く薬だ、という考察が導けます。

 もちろん薬に限らず、手術など他の治療に関しても、同じ考え方を用います。

 ◇世界中のデータが基に

 では、これらの数字は、どのようにして算出されるのでしょうか。

 多くの場合、これらは大勢の患者さんを対象とした、過去の臨床研究の結果に基づいています。

 今や、数え切れないほどの臨床研究が、全世界で絶えず行われています。特に疾患人口の多いがんの場合、世界を見渡せば、同じがんの患者さんは大勢います。こうした患者さんのデータを集めることで、前述のような統計学的な数値が得られるのです。

 一方、こうした「数値」は、必ずしも患者さんが知りたい「薬の効果」ではない可能性があります。

 患者さんが知りたいのは、「どのくらいの割合の人に効くか」ではなく、あくまで「自分自身に効くか否か」だからです。

 臨床研究で対象となっている患者さんは、それぞれ一人ひとりが異なる存在で、異なる性質を持ち、薬の効果もさまざまです。

 統計学的なデータは、患者さんと一緒に治療方針を決める上で極めて重要ですが、その解釈が医師と患者さんの間で食い違う可能性には、注意が必要なのです。

 ◇誤解なく治療が進むように

 私たち人間は、あまりにも多様な生き物です。同じ病名であっても、その病気の勢いや治療の効果は人によって多種多様です。ある特定の人の未来を予測することは非常に困難です。

 一方で、一人ひとりの特性を知った上で治療を提供できるのは、やはり目の前の医師でしょう。医師と患者さんが、お互いがうまく意思疎通でき、誤解のない形で治療が進むことをいつも願っています。

(了)


 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。

【関連記事】


教えて!けいゆう先生