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FU-RIGHTの理念で医師を育成
コミュニケーション力・人間力を重視―福岡大学医学部

 福岡市西部に位置する福岡大学は、学生総数約1万9000人と西日本最大の総合大学だ。1934年に創立された福岡高等商業学校、福岡経済専門学校時代を経て56年に福岡大学と改称。医学部の増設は72年で、翌73年に大学病院が開設された。経済界で活躍する卒業生も多く、企業と連携した研究も多岐にわたる。また、基盤研究機関研究所や産学官連携研究機関も設置しており、関連病院である筑紫病院や西新病院とともに先進医療から地域医療に至るまで幅広く提供している。

 病院の理念である「あたたかい医療」の下、患者に寄り添い、地域社会に貢献できる医師の育成を目指している。

小玉正太医学部長

 ◇コミュニケーション力に定評

 福岡大学が何より大切にしているのはコミュニケーション力と人間力だ。実習・研修先での医学部生の評価も高いという。

 「人間力というのは、仕事を行う上で必須のアイテムです。学生には自分の親を診るように診察しなさいと言っています」

 医学的知識は必要条件であり、必要十分条件ではない。診療においても患者に不用意な不快感を持たれないことが重要だと小玉正太医学部長は話す。

 「医師であることに誇りを持つことは必要ですが、残念ながら高圧的な態度を取る医師もいます。それは絶対にダメです。医師には謙虚さも必要で、最近では、そういったところも卒業条件に入れようかと考えているところです」

 実際に、臨床の現場で患者からの評価が低い場合には欠点になることもあるという。数値には現れない医師としての資質を見極めるのは難しいが、人間力を評価するシステムは少しずつ完成しつつある。

福岡大学病院

 ◇FU-RIGHT精神を学生に周知

 6年間の医学教育は学生にとって決して短い時間ではないと小玉医学部長は言う。

 「この間、モチベーションを維持するのは非常に難しいことです」

 そこで、学生には早期臨床経験の機会を設けて入学後1年時に同窓会の援助により白衣授与を行っている。

 「医学教育を受けて医師になるという強い自覚を持たせるためには、早い時期に医師としての最終的な姿を見せることが必要です。これは医学教育の基本であると思います」

 福岡大学医学部では、「プロとして誇り高く、広い視野を持って患者に寄り添い、地域社会に貢献する医師を育てる」を主眼とし、「FU-RIGHT(FU-Fukuoka、R-relationship:信頼関係、I-intelligence:知識、G-gentleness:やさしさ、H-health:健康増進、T-teaching教育的指導)」を理念に掲げ、医師の育成に当たっている。

 「学生には、この言葉が書かれたカードを渡しています」

 ◇医工連携が功を奏す

 今回のコロナ禍において、医療現場ではフェースシールドをはじめとする防護具不足という深刻な事態が起きた。こうした中、医学部と工学部による医工連携で、地域の医療機関から特に要望が多かったフェースシールドを1日に約500個量産するなど迅速な対応を取った。

 「福岡大学病院は、地域の拠点病院の一つではあるのですが、それ以外にも地域医療的なサポートも行っています。感染が拡大するコロナ禍において、国の施策では到底間に合わない状況でしたから、比較的早い段階に大学主導で対応できたことを誇りに思っています」

 スピーディーな対応を可能にしたのは、トップダウンで強力なガバナンスの道筋をつくってもらったことだという。

 「幸いにも学長が医学部出身でしたので、そのあたりの理解もあり、学長のガバナンスで医工連携が進んだことは大きかったと思います」

 また加えて、体制づくりで一番重要なことはコミュニケーションだという。

 「医工連携のように、横のつながりが大切になります。各部門と素早く折衝できるかどうかというのも、結局はコミュニケーション力につながるのです。

医学部校舎

 ◇ECMOセンターを開設

 7月には新型コロナウイルス感染症の重症患者に対し、人工心肺装置(ECMO)を用いた「ECMOセンター」の運用を開始した。

 「ECMOに関しては、機器があればできるというものではありません。施行する医師や技術者の育成が問題となります」

 日本におけるECMO治療は世界的に見ても劣っていたという。そこで、福岡大学病院では約10年前からECMO治療で実績のあるカロリンスカ大学病院(スウェーデン)に医師や臨床工学士を派遣して技術の習得に努めてきた。

 「大学病院ですから、最後のアンカー的存在として先端医療を提供するのはあるべき姿だと思います」

 重症例の患者受け入れ数は九州では最多となり、高い救命率を上げた。その背景にあるのは、長年の症例検討や技術の習得および継承があった。福岡大学病院が持つ技術や経験を生かし、九州地区におけるECMO治療の向上や人材育成に貢献している。

小玉医学部長

 ◇父と同じ外科医の道へ

 代々医師の家庭で育った小玉医学部長は一時期、別の道を考えたこともあったが、父親と同じ外科医になると決め福岡大学医学部に入学した。

 「私は再生医学や先端医療に携わっていますが、不思議なもので、滋賀医科大学外科学講座の主任教授を退官した父も外科医でありながら、当時は最先端と言われていた免疫学に取り組んでいました」

 外科医として福岡大学病院で働き始め、若い頃には指示されるままに出向した。

 「医師に働き方改革という概念などなかった時代のことですから、遅くまで患者対応をしたり、学会発表の準備や論文執筆をしたりしたこともありました」

 初代教授には定型術式の習得のためと、豆腐を用いて軟部実質組織の縫合結紮の練習を課題として与えられたこともあったという。外科医のトレーニングが非常に厳しい時代だったと話す。

 大学院を修了してハーバード大学へ留学。移植医療の研究を行う中で、学問としての再生医療に出合った。専門は消化器外科。10年間に及ぶ米国での研究で、膵島再生の機序を発見するなど、膵島移植の研究と実績においては国内外での評価が高い。しかし、日本の移植医療はドナー不足という壁がある。そんな日本で期待されているのが再生医療だ。

 「研究をはじめた2000年ごろは『トカゲのしっぽじゃあるまいし…』と、周囲の目は冷ややかでしたが、今では非常に注目されている分野です」

 小玉医学部長が長年研究を行ってきた膵島移植は、先進医療として20年から保険適用となった。また、ドナー不足を補う施策として異種移植による「バイオ人工膵島移植」の研究も現在進行中だ。

 「実用化までにはまだ多少時間はかかりますが、ドナー不足の日本における最後の切り札として期待されています」

 ◇医療の対象は「ヒト」

 ソフト面だけでなくハード面での整備も整いつつある。現在、福岡大学ではキャンパス整備計画と福岡大学病院の本館建て直しに伴い、災害時の近隣の地域住民へのDMAT対応や患者収監能力の拡充についても議論がなされているという。

 「医療の対象となるのは『ヒト』です。学生には在学中に、全国でも福岡大学が評価の高い『コミュニケーション能力・人間力』を身に付けてほしいと願っています」
(ジャーナリスト・美奈川由紀)

【福岡大学医学部 沿革】
1972年 医学部医学科を設立
    73年 福岡大学病院を開設
    78年 大学院医学研究科人間生物系専攻、感染生物系専攻、病態構造系専攻、病態機能系専攻、病態生化学系専攻を開設
    85年 福岡大学筑紫病院を開設
2007年 医学部に看護学科を増設
    11年 医学研究科に看護学専攻修士課程を増設
    18年 福岡大学西新病院を開設

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