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今年度の新入社員、適応障害の注意点は?

 新入社員が研修をスタートする季節がやって来ました。これからしばらくの間は適応障害に特に気を配りたい時期と言えます。今年の新入社員は学生時代を新型コロナウイルス禍の下で過ごした背景を持っています。こうした環境の影響を認識して研修などを行うことが大切でしょう。今年、特に気を付けたい適応障害の予防について考えます。

(文 海原純子)
入社式に臨む新入社員ら(伊藤忠商事)

入社式に臨む新入社員ら(伊藤忠商事)

 ◇コロナが影響、コミュニケーションに難

 コロナ下で過ごした学生はマスク生活が続き、授業はリモートが中心で部活動も満足にできず、運動会や旅行などのイベントも体験できない状態でした。こうした影響もあるのでしょう。1人でパソコンやスマートフォンに見入ることが多く、横のつながりをつくるトレーニングが不足している傾向があるようです。

 先日、産業医をしている企業の新入社員研修会で、同期のネットワークの重要性についてお話ししましたが、実際にどうやってネットワークをつくるかなどの研修をしないとコミュニケーションを取る方法が分からない若者が多いことに気が付きました。

 例えば、コロナ以前の新入社員は研修の合間に周囲と雑談しながら自然な形でコミュニケーションを取っていたのですが、今年はそれぞれスマホを操作したりして周りと話し合う様子が見られず、同期社員への関心を持たない様子でした。これはちょっと気がかりな現象でした。業務が本格的に始まった後、同期同士のコミュニケーションや情報交換ができないと、ストレスからの回復力(レジリエンス)の面で懸念されます。こうした点を踏まえ、適応障害の予防を行う必要があると思いました。

 ◇適応障害とは

 適応障害とは入学・入社・転勤や部署異動などはっきりと「これがストレス」と分かる環境の変化があってから3カ月以内に起きる心身の不調を言います。気分の落ち込みだけでなく、不眠や食欲不振、胃の痛み、下痢、耳鳴りや頭痛めまいなど、さまざまな体の症状も起こります。詳細を以下に記します。

・睡眠の変化:朝早く目が覚める、熟睡感がない、夜中に何度も目が覚める、寝つきが悪い、朝起きられない、悪夢を見る

・食欲の変化:食べてもおいしくない、食欲低下、過食

・体調の変化:倦怠(けんたい)感、頭痛、肩凝り、吐き気、胃腸障害、下痢めまい、体の痛み、ふらつきなど

・気分の変化:楽しくない、やる気が出ない、だるい、憂鬱(ゆううつ)、怒りっぽい、いらいらする、絶えず不安感がある

・行動の変化:集中力が低下、ミスが多くなる、仕事がのろくなる、物事が決められない、掃除や片付けができない、遅刻が多い

 ◇予防策

 新しい環境に置かれても大丈夫な人がいる一方、適応障害に陥る人もいます。一概に環境変化だけが問題というわけではなく、環境と、その人がどの程度ストレスからのレジリエンスを持っているかが影響します。予防に必要なのは回復力とサポートシステムといえます。予防策としては次の通りです。

公園でジョギングや散歩を楽しむ人々。ストレス軽減にお勧めだ

公園でジョギングや散歩を楽しむ人々。ストレス軽減にお勧めだ

 1. 生活リズムの確保
 特に新入社員の適応障害の予防に必要なのは「生活リズムの確保」です。朝の起床時間、就寝時間、食事時間などをできるだけ一定にし、休日でも2時間以上の差異が生じないように心掛けましょう。生活リズムを整え、自律神経の乱れを防ぐことが大事です。食事時間を一定にしておくと胃腸の働きが保たれ、自律神経の乱れを防げます。

 2. 身体を動かす時間をつくる
 散歩やストレッチなど時間を決めて身体を動かす習慣を付けると、ストレスからの回復に効果的です。仕事の後に体を動かさずにスマホやテレビを見たりしているケースが多い人は運動習慣を付けるようお勧めします。

 3. 太陽の光を浴びる
 朝、太陽の光を浴びると、14~16時間後に睡眠を誘導するホルモンのメラトニンが脳の松果体から分泌されます。睡眠のリズムは生活リズムを整える上で非常に重要です。朝の起床時間を一定にし、少し眠くても起きて窓を開け、光を浴びる習慣を付けると有効です。昼間は屋外環境に豊富に存在する波長360~400nm(ナノメートル)の紫の光(バイオレットライト)を活用してください。バイオレットライトは網膜の受容体の反応を引き起こして脳の機能に影響を与え、うつの予防に役立つという研究結果が報告されています。お昼休みは部屋にこもらず、天気がいい日は外に出て太陽の光を浴びるなどが効果的です。

 4.横のつながり
 ストレスからの回復には周囲とのコミュニケーションが不可欠です。つらい状況でも仲間がいて話し合い、共感し合える環境は適応障害の予防になります。新入社員がどうやって周囲と仲間づくりをすればいいか分からないという様子なら、つながりをつくりやすいワークショップなどを開催してはいかがでしょうか。私がよく行うのは「共通点探し」というワークです。2人ずつペアを組んでもらい、時間を決めて(例えば5分以内など)お互いにどのくらい共通点があるかを数えるというものです。共通点が多いほど親しみが増すものですが、時間を決めて探すことで短時間で自分と相手を知る機会が生まれます。話し合う間に笑いが生まれることもしばしばで、気分が和む様子がうかがえます。ストレスからの回復にはサポートが必要ですが、横のつながりは共感支援や情報支援として役立つと言えます。

 以上、適応障害の予防についてまとめましたが、現時点で気が付いた今年度の新入社員の問題点は、ネットワークづくりの希薄さと身体を動かすよりスマホが好きという傾向です。コロナ下で学生時代を過ごしたという影響を考えつつ、新入社員が適応障害に陥らないように予防することが必要でしょう。(了)

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