新米医師こーたの駆け出しクリニック

水の飲み過ぎは危険です
~重篤化の恐れも~ 専攻医・渡邉 昂汰

 先日、米国インディアナ州在住の30代女性が20分で2Lの水を飲み、「水中毒」を起こして死亡するという悲しい事件がありました。たった2Lの水で、なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか。

水の飲み過ぎは危険

水の飲み過ぎは危険

 ◇水中毒ってなに?

 水中毒の原因は、血中のナトリウム濃度が下がる「低ナトリウム血症」です。ナトリウムはその浸透圧により、細胞内外の体液のバランスを調整しています。本来、その濃度は腎臓の働きで一定に保たれていますが、急激に水が流入すると調節が追い付かず、血中ナトリウム濃度が下がってしまうのです。吐き気頭痛などの症状から始まり、さらにナトリウム濃度の低下が進行すると、細胞の体液バランスが狂ったことで脳浮腫となり、けいれんや意識障害を起こします。

 ただし、2L程度の飲水で重篤な水中毒が起きることは大変まれで、私が今まで診た症例も5~10Lは飲んでいる場合が大半でした。今回亡くなってしまった女性は、背景に慢性的な塩分摂取不足もしくはホルモン分泌の異常などがあり、重篤な低ナトリウム血症を起こしやすい方だったのかもしれません。

 ◇医師泣かせ

 水中毒は単純なようで、実は診断が難しい疾患です。水を大量に飲んだというエピソードを聴取できれば、診断に一気に近づくのですが、この疾患は意識障害を起こすため問診ができない場合が多々あるのです。すると、血液検査などの客観的指標から原因を探っていくことになりますが、ただの塩分摂取不足やホルモン異常などの他の低ナトリウム血症を起こし得る病気と見分けるのは容易ではありません。ナトリウム濃度を上げる治療と並行しながら、頻回に血液検査や尿検査を行い、時間をかけて診断を進めていく必要があります。

 しかし、一口にナトリウム濃度を上げるといっても、病態によって必要な補充方法は異なります。診断が困難を極め、適切な治療ができなかった場合は、ナトリウム濃度が乱高下し、さらなる脳の障害を起こしてしまう可能性もあります。

 ◇心掛けたい予防

 このように水中毒は命に関わる疾患で、診断や治療が難しいため、予防が大切です。飲水を小まめにすることで、脱水を予防し、体内のナトリウム濃度のバランスを保つことができます。また、汗をたくさんかいた場合は、水分だけでなくナトリウムなどのミネラルも補給する必要があります。経口補水液を飲んだり、お茶や水に加えて塩あめ、梅干しなどを摂取したりすると効果的でしょう。まだまだ暑い日が続きますが、体内のナトリウム濃度にも配慮した水分摂取を心掛けていただければと思います。(了)

渡邉昂汰氏

渡邉昂汰氏


 渡邉 昂汰(わたなべ・こーた) 内科専攻医および名古屋市立大学公衆衛生教室研究員。「健康な人がより健康に」をモットーにさまざまな活動をしているが、当の本人は雨の日の頭痛に悩まされている。

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