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プラネタリウムで知ってね
~血液がん治療に新たな期待―CAR-T~

 「広い宇宙の中で、私たちは生きている。生命の源、それは細胞です」
 こんなナレーションによって、東京・有楽町のプラネタリウムで映像を公開するイベントが始まった。この「サイボウリウム」で観客が見るのは宇宙にきらめく星々ではなく、細胞の世界だ。そこでは、医療の新技術で生まれたCAR-Tという細胞が血液中のがん細胞を攻撃していく。サイボウリウムは、細胞とプラネタリウムを組み合わせた造語だ。

血液がんと免疫細胞の闘いを描く「サイボウリウム」

血液がんと免疫細胞の闘いを描く「サイボウリウム」

 ◇一生に一度のチャンス

 白血病、リンパ腫、骨髄腫という三大血液がんは、すべてのがんのうち5%を占める。北海道大学大学院医学研究院の豊嶋崇徳教授(血液内科)は「このがん細胞は血液とリンパ球の中をぐるぐると移動する。手術や放射線治療は有効ではなく、薬物療法が中心だ」と話す。こうした中で、免疫力を高めることでがんに勝とうという治療が、CAR-T細胞療法だ。

 造血幹細胞移植は、免疫力強化に主に他人の免疫を利用する。豊嶋教授は、CAR―T細胞療法について「『警察官』であるT細胞という患者自身の免疫細胞を強化することで、警察官が強力な武器を持つ」と説明する。ポイントはウイルスの利用だ。ウイルスというと、負のイメージがあるが、「他の遺伝子を運び、人間を進化させる面もある」。Tリンパ球にウイルスを感染せることで免疫細胞を強い警察官に変えるという仕組みだ。

豊嶋崇徳・北海道大学大学院教授

豊嶋崇徳・北海道大学大学院教授

 この治療を受けることができる医療施設は2019年には4施設にすぎなかったが、今は69施設に広がった。ただ、治療を受けられる患者は難治性または再発の場合だ。重い副作用が伴う可能性がある。さらに費用が高額なこともあり、豊嶋教授は「一生に一度のチャンスと考え、専門医と相談しながら冷静に決めてほしい」と指摘する。

 ◇未来につながってほしい

 イベントのゲストは、声優の梶裕貴さんと俳優の佐野史郎さん。

 佐野さんは21年に多発性骨髄腫と診断され、自身の造血幹細胞を移植する治療を受けた。「現在は(症状が治まっている)寛解状態にあるが、再発する可能性がある病気だ。主治医からCAR-T細胞療法の説明はなかったが、非常に興味を持っている。サイボウリウムを見て素人の私にも『こういうことか』と分かった」と言う。

 佐野さんは「体力が低下し、腎機能も落ちている。どうしようと思う一方で、まだ若いんだという気持ちもある」と話し、CAR-T細胞療法について「血液のがんにかかっても前向きになれるだろう」と期待をかけた。

 ナレーションを担当した梶さんは骨髄バンクの啓発キャラクターの声も務めている。

 「プラネタリウムが好きで私がプロデュースした作品が上映されたこともある。人体の構造は宇宙と通じるものがあるというイメージは間違っていなかった。この作品は、一般の方にとっても情報を分かりやすく知るきっかけになる」

 梶さんはその上で「さまざまな治療選択肢の中にCAR-T細胞療法が入る。頑張って未来につながっていったらうれしい」と話した。

NPO法人「血液情報広場つばさ」理事長の橋本明子さん

NPO法人「血液情報広場つばさ」理事長の橋本明子さん

 ◇夢はかなう

 NPO法人「血液情報広場つばさ」理事長の橋本明子さんは、1986年に長男が白血病を発症したことをきっかけに「骨髄バンク」の立ち上げに奮闘した。血液内科の医師やメディアと連携して77万人の署名を集め、骨髄バンクの設立につなげた。

 橋本さんはイベントに参加し、「CAR-T細胞療法に血液がんの患者やその家族から期待が寄せられている」と話した上で、こう続けた。

 「患者や家族が困った時に、『CAR-Tがあるのでは』と考えてくれること。多くの人が知ることが大事で、そこから始めたい」

 橋本さんは「一つ新しい治療法が登場すると、何年か後には幾つもの治療法に発展していく。みんなで見る夢はかなう」と強調した。

 ◇まず関東で上演

 プラネタリウム動画を作製したのはギリアド・サイエンシズで、CAR-T細胞療法を広く知ってもらうのが目的だという。同社はまず、関東中心の科学館に併設されたプラネタリウムに動画を提供するとともに、組み立て式で持ち運び可能な設備で各地で上演し、医療関係者らに見てもらうことを目指している。(鈴木豊)

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