治療・予防

真摯に話し合う
~重い病気の子の治療(国立成育医療研究センター 余谷暢之診療部長)~

 小児医療が進歩し、重い病気でも治療の手だてや延命の期待が見いだせるようになってきた。一方で、どこまで積極的な治療をするかといった選択を迫られ悩む家族もいる。国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)総合診療部緩和ケア科の余谷暢之診療部長に聞いた。

年齢や段階に応じ丁寧な話し合いを

年齢や段階に応じ丁寧な話し合いを

 ◇正しく迷う道しるべに

 治療に関して意思決定するには、患者、家族と医療者との話し合いが重要だが、難しい決断を迫られ合意に達しない場合もある。こうした状況から2024年7月、日本小児科学会は「重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン」を12年ぶりに改定した。

 これまで、「『医学的には選択し得る治療が子どもにとって最善なのか』という葛藤を、患者や家族、医療者がそれぞれ抱えていました」。今回の改定では、医学的視点に偏り過ぎず、子どもの尊厳や最善の利益を第一に考え、家族と医療者が協働して話し合いを行うためのガイドとして作成された。

 改定のポイントは主に2点。一つ目は、子どもを中心に、家族と話し合うための医療者の行動指針が明記されたことだ。

 話し合いで最も尊重されるべきは子どもの意思や価値観だが、意思を表明できない場合、子どもの利益を誰が、どうくみ取るのか、その判断は容易ではない。中でも生命維持治療の中止は、親にとって苦渋の選択だ。

 「家族が医療者を信頼し、治療の意義を正しく理解するには、生命維持治療を続けても回復が望めない、医学的な事実を共有するステップが大切です。ガイドラインには関係者全員が正しく悩む、つまり子どもを主語に真摯(しんし)に話し合うための道しるべとしての役割があります」

 ◇緩和ケアの重要性

 二つ目のポイントは、小児医療にも緩和ケアが盛り込まれた点だ。緩和ケアとは病気や治療に伴う身体的、精神的、社会的、スピリチュアルなつらさを軽減し、生活の質の向上を目指すケアのこと。病気の診断がついた時から治療と並行して始め、家族にも同様のケアが提供される。

 「まだ話せない小さなお子さんのつらさを捉える際には、子どもの声なき声をいかにすくい上げるかが肝になります。ケアの実践に当たっては医療関係者の他、保育士や教師などを含む多職種が連携した、子どもを主語にした話し合いの積み重ねが重要です」

 成長による状態の変化が大きいのも、重い病気を抱える子どもの特徴だ。「子どもと家族は、共に成長発達する存在。年齢や段階ごとに課題は変わります。だからこそ丁寧な話し合いを繰り返し、疑問や心配事は遠慮せずに医療者に伝えることが大切です」と余谷診療部長は助言している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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