急な冷え、寒暖差に注意=脳卒中や不整脈の恐れ
温熱学を専門とする国際医療福祉大学大学院の前田眞治教授は「体が冷たくなると、体温を一定に保とうとして交感神経が緊張し、血管がギュッと収縮する。この結果、血圧が上がる」と説明する。日常的に寒暖差を経験する冬は、危険なシーズンだと言える。
前田教授は、平常時の血圧が100前後の健康な男性(35歳)と女性(31歳)を対象に実験を行い、冬の日常生活における温度差の危険性をシミュレーションした。実験は、室温が異なる二つの部屋を用意し、暖かい部屋ではエアロバイクなどを使って日常生活の運動を再現。暖かい部屋を出る直前、寒い部屋に移動した直後、それから1分経過した時点での血圧を測定した。これを基に前田教授が監修したのが「温度指数」だ。
温度指数はレベル1から3までの3段階に分かれる。レベル3は血圧の上昇(mmHg)が15以上で「危険」。脳卒中や不整脈、動悸(どうき)、胸の痛み、頭痛などが起きる可能性がある。レベル2は上昇が10以上15未満で「やや危険」。動悸や軽い頭痛などにより、活動に一時的に支障を来すことも考えられる。レベル1は上昇が10未満で、問題はない。
◇洗濯物干し、ごみ捨てのリスク
レベル2は、暖房が利いたオフィスで仕事をしていて温度が低いトイレに行ったりするような場合だ。電車の中でコートや上着を脱ぎ、そのまま駅のホームに降りるケースもレベル2に相当する。「降りる直前にコートや上着を着込んでほしい。やや窮屈な空間だが、自家用車やタクシーから降りる時なども同じだ」と前田教授は言う。
冬は、布団から出て起き出すのがつらい。「布団の中はいわば、空気の塊のようなもので体温と同じ温度になり、暖かい。ただ、起き上がると背中が冷える。完全に布団から出ると、急激に体温が奪われる」。例えば、用を足しに行く場合は何か寝間着の上に羽織る必要があるが、羽織る物が冷えていてはあまり効果がない。前田教授は「羽織るなら、丹前みたいものが良いだろう」と話す。
◇温度計でチェックを
汗をかいたままでいないことも大切だ。気化熱といって、液体の物質が気体になる時に周囲から熱を奪う。タオルで汗を拭いたり、着替えたりしないと体温が低下してしまう。
屋内での急な冷えによるリスクを避けるため、前田教授は温度計を居間や廊下、洗面所、トイレなど家の中の数カ所に置くことを勧める。「人が感じる温度と実際の温度は違う。本人の感覚は当てにならない」からだ。目で見て、実際の温度を確認するようにしたい。
◇保温効果の服装は
健康面で思わぬ落とし穴がある冬を乗り切るための服選びのポイントは何か。日本女子大学家政学部被服学科の多屋淑子教授は、春や秋にはアウター、冬にはミドラーとして着るフリース、ニット、スエットなどについてその保温効果を実験した。その結果、体と衣服の間の空気の状態が体の冷えに大きく影響することが分かったという。この中で多屋教授が勧めるのが、フリースだ。多屋教授は「寒冷な環境下で、皮膚の温度の低下が小さく、高い保温効果が観察された」とした上で、「フリースの素材は、体熱で暖められた空気を繊維と繊維の間に閉じ込めることができる構造をしている。さらに、乾燥性に優れ、汗をかいても快適さを保つことができる」と指摘する。(鈴木豊)
(2018/01/21 16:00)