Dr.純子のメディカルサロン
日本の喫煙者が肺がん患者に冷たい理由 澤祥幸・岐阜市民病院診療局長
澤 はい、2010年の国際肺がん連盟の国際アンケートでは、がんで亡くなる方の中で肺がんによる死亡が最も多いとの認識率は65%と、ノルウェーと並んで世界トップでした。これはがん情報の普及のおかげですが、問題は、その知識はまるで他人事で、自分が肺がんだったらどんな症状が出るのか、どんな症状が表れたら病院に行くべきか、といった現実的な情報を収集していないことになります。日本は病院受診のアクセスがよく、健康保険でいつでも受診できるので、自主性がなく病院任せということでしょう。
各国の喫煙率と肺がん患者への共感度を比較すると、喫煙率の低い国では肺がん患者への共感度も低いのに、日本では喫煙に寛容でありながら、肺がんに罹患した患者には冷たい、あるいは無関心な傾向がくみ取れます(図3)。
禁煙の話で急に怒りだす
澤 たばこ依存を一つの疾患ととらえれば、単にニコチン依存症にとどまらず、心理的不安定さは、本来の社会生活を送っている人なら、それなりに備えているコミュニケーション能力、自分以外の弱者に対する思いやりや心遣いといった社会性の喪失という事態に陥りやすいと推測できます。身体的障害はないので、一見健常な社会人に見えても、禁煙について切り出すと突然、人が変わったように怒りだしたり、自己中心的になったりするのも、このエビデンスに同意できる現象かと思います。
不安や不安定な気分状態では、冷静な判断力や客観的評価も不十分となり、たばこを吸っていても、「自分だけは肺がんにはならない。肺がん患者はたばこ以外に何か悪いことをしたに違いない」と、肺がん患者をさげすむような発言につながっているのでは、と危惧します。
(2018/09/04 14:42)