2024/12/18 05:00
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◇コロナ禍の男性のストレス
新型コロナウイルスの感染拡大が続いて1年半余り、生活環境が大きく変わり誰もがストレスを感じている状況です。医療現場で感じるのは、男女それぞれの社会的立場や家庭での役割の違いによりストレス要因が異なり、ストレス対応の方法の違いがあることです。
男性の場合は、経済的に自分が家計を支えなければならない、という状況の人が多いため、ストレスを感じながらも過剰適応してしまうことがあります。例えば、職場でコロナ以前より業務負担が増えても、それを受け入れないとリストラに遭うかもしれないという危機感が強く不安を抑圧するような場合です。今回はコロナ禍の男性のストレスについて考えます。
都の要請で午後8時を過ぎると大型スクリーンなどの照明が消された(4月27日撮影、東京渋谷のスクランブル交差点)
◇弱音を吐けない男性の意識
ケース:製造業・40代男性Aさん
コロナ禍で企業の実績が悪化し、派遣労働の人たちの契約更新がなくなり、正社員のAさんたちに業務が割り当てられ、時間外労働が増えることになった。妻と小学生の子どもの3人暮らし。妻は専業主婦で、Aさんがリストラに遭うわけにはいかない状況であり、精神的にプレッシャーを感じていた。勤務態勢の不満を言いだすわけにはいかず、我慢する日が続きイライラして、帰宅後のアルコール量が次第に増えてしまった。休日の夜、ビールを飲んだ後酩酊し、風呂場で滑り転倒して腕を負傷して病院に運ばれた。
ケース:事務職・20代男性Bさん
この1年余り、仕事のほぼすべてがリモートになり自宅勤務となった。最初は出勤しなくて、いいと思っていた。しかし、一人暮らしで、実家のある地方に夏も正月も帰れなかったので、気持ちが落ち込んでいった。毎日のメリハリがなくなり、今日が何曜日だったか、分からなくなるように感じていた。
コロナ以前は仕事帰りにジムに行っていたが、ジムは休業が続いたため退会した。ジムの交友関係が多かったので孤独感があったが、弱音を吐けないことと、人に相談するのはプライドがあり嫌だった。コンビニ通いで菓子パンやスナック菓子を買いこみ、テレワークをしながらつまむという習慣がついた。半年そんな生活が続いたところ、9キロ体重が増え頭痛や肩こり、めまいが起こるようになり、受診し高血圧のための症状であることが分かった。
ケース:事務職・50代男性Cさん
仕事は休まない、というのがモットーで、コロナワクチンの職域接種の手配なども担当し、ハードなスケジュールで仕事している。普段から時間外労働を多くすることがいい、休まないのがいい、という思い込みが強く、これを部下に押し付けるために部下がストレスで適応障害を起こしている。本人は日常生活で食事が不規則になりがちで運動不足のため、いつも健診で冠動脈硬化・心臓肥大・高血圧・糖代謝異常を指摘され続けているが、今年度はさらに健診結果が悪化してる。
昼飲みを誘う居酒屋の看板(6月21日撮影、東京都港区)
◇「強くなければならない」幻想
男性のストレス対処の問題点は「男は強くなければならない」という心理的束縛だと思われます。人に自分の弱みを見せるのは恥だ、と思っている男性も少なくありません。
こうした思い込みは一見、若者とは無縁のように見えますが、決してそうではありません。若い世代でも親の態度や家庭環境に影響されることが、しばしばです。
産業医面談をしていると、20代の若い男性でも、うつ状態であることが心理チェックで明らかなのにもかかわらず「自分は大丈夫」と言って、受診や休むことを避ける人もいます。そして、つらくても誰にも相談せずに抱え込み、そのつらさを紛らわそうとしてアルコールやたばこなどの嗜好(しこう)品を求め、次第に量が増え依存するというパターンが起こります。スナック菓子や清涼飲料水などの過食・過飲で体重が増えたり、中性脂肪が増えたりしている男性も見られます。
◇本音を話していい場所と相手を
つらい気分を話す場が、コロナ禍で減っているのは事実です。職場の帰りにちょっと一杯飲みながら、職場とは無関係で利害関係のない人に愚痴を言うようなガス抜きが出来なくなっていることも、男性のストレスの背景にあると思われます。家庭を持つ人では、家族に話すと不安がらせてしまうという懸念や、話してもどうせ理解はできないだろうという思いもあり、自分の気持ちを話さないため鬱憤(うっぷん)がたまり、家族に当たってしまうという結果になることがあります。
男性の場合はプライドが邪魔して、人に相談したり体調が悪くても言い出せなかったりします。精神的に落ち込んでも、メンタルなことで休むのは弱いと思われるから絶対に休みたくない、というケースもしばしばです。
マスクを着けた像の横を散歩するマスク姿の人たち(2020年4月29日撮影、東京都杉並区で)
◇ストレス回復に必要な3つの要素
ストレスから回復する要素として気持ちを表現すること、つながりを作ること、ものの見方を変えていくことの3つが重要とされています。
コロナ禍の中でもプライドに邪魔されず、本音を気兼ねなく話せる場所をつくることが大事です。そうした相手が簡単に見つからない場合は、アルコールなどに頼ってしまう前に、体を動かすこと、例えば、散歩やジョギングなどの運動習慣をつくることも有効です。身体は心の表現手段の一つです。
朝散歩を始めた人が、気持ちがすっきりしてきた、余計なことを考えない時間をつくれたのがいいとおっしゃっていました。身体を動かす習慣がある人の方が、ストレスからの回復力が高いという報告もあります。アプリを使い一緒に走るライブランを利用して、体を動かす習慣ができ、人とのつながりをつくることができて良かったという人もいます。都会の中で自然と触れ合うのはなかなか難しいものですが、公園など緑の多い場所で過ごす時間を確保することもストレスからの回復に役立ちます。
また、家の中でリモート作業をしていると、思考回路も転換できにくくなるものです。居場所を変えることで、気分を変えることがものの見方を変えるヒントにもなります。ストレスにより重大な病気になる前に、予防をしておいてほしいと思います。(文 海原純子)
(2021/07/09 05:00)
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