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コロナ禍でも大事な脳卒中対策
~カギは生活改善と早期発見~ 【第9回】脳卒中の救急医療① 国立病院機構九州医療センター 岡田靖副院長

 ある日突然発症し、時に機能障害を残す脳卒中。リハビリが必要になると社会復帰までに時間を要し、本人のみならず家族にも大きな負担となってしまう。しかし、生活習慣を改善することで発症を防ぎ、発症前に起きる前兆の段階で適切な治療を行うことで後遺症を残さずに済む。脳卒中の治療は時間との闘い。関係機関との連携体制を構築し、脳卒中の救急医療に取り組む国立病院機構九州医療センター(福岡市中央区)の岡田靖副院長に話を聞いた。

コロナ禍の中、症状の軽い人の受診抑制が見られる

コロナ禍の中、症状の軽い人の受診抑制が見られる

 脳卒中の種類

 脳卒中は、脳の血管異常によって神経症状を起こす疾患で、「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の三つのタイプに分類される。中でも脳卒中の6割を占めているのが脳梗塞で、歩行障害や言語障害などの後遺症が残ることが多く、寝たきりとなる最大の原因となっている。

 脳梗塞は、脳の太い血管にできたコレステロールの塊に血小板が集まって動脈を塞ぐ「アテローム血栓性脳梗塞」、脳の細い血管にできた動脈硬化によって血管が詰まる「ラクナ梗塞」、心臓にできた血栓が脳に流れて血管を塞ぐ「心原性脳梗塞」などのタイプに分けられる。

 比較的高齢者に多い脳梗塞に比べ、脳内の血管が破れる脳出血や、脳表面の血管にできた動脈瘤(コブ)が破裂するくも膜下出血は若い人に多く見られる。「40~50代で脳出血が起こって社会復帰できずに困っているという人の原因の多くは高血圧の放置です。一方、後期高齢者では、心房細動からの脳梗塞が多く見られます」と岡田副院長。

国立病院機構九州医療センター・岡田靖副院長

国立病院機構九州医療センター・岡田靖副院長

 コロナ禍における脳卒中

 基礎疾患があると、新型コロナウイルスに感染した場合に重症化するリスクが高まるとの報道などから、健康管理に関心を持つようになった人もいることだろう。しかし、高血圧糖尿病などの生活習慣病は、自覚症状が表れにくいことから放置されていることも多く、ある日突然、脳梗塞や心筋梗塞などを発症するケースも見られる。

 「コロナ禍においても脳卒中は重要かつ緊急の疾患で、まひが表れて救急車を呼ぶケースは、以前とそれほど変わりはありません。しかし、脳卒中かどうか迷うような軽い症状の人の受診率は全国的に見ても減っているようです。病院に行って感染したくないという受診抑制でしょうね」と岡田副院長はみている。

 九州医療センターは地元福岡市の中核病院として、発熱外来を設ける一方で、入院を要する中等症から、重症だがECMO装着までは必要のないレベルのコロナ患者を受け入れてきた。

 「コロナで重症化して死亡された患者さんの中に、最後の経過中に脳卒中を併発していたというケースが2%ほど見られました。コロナで全身のサイトカインストーム(免疫暴走)が起こると、その炎症によって血栓が作られてきますが、それが脳に詰まると脳梗塞を発症します。当院よりワンランク上の重症者を受け入れているECMOセンターなどでは脳梗塞の頻度は、より高いと思います」と岡田副院長は説明する。

 時間との闘いである脳卒中だが、コロナ禍においては、まず医療従事者の感染防御が前提となる。「時間短縮が求められる中、診療過程に従来よりも多少の遅れが見られます。入院が必要な患者さんには抗原陰性の確認とPCR検査を全員に行います。夜間緊急搬送で入院となった場合には、翌日にPCR検査を行っています」

 コロナ感染症の第6波が猛威をふるう中、脳卒中をはじめ、心筋梗塞などの緊急を要する疾患に対する迅速で適切な対応が求められている。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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