「医」の最前線 地域医療連携の今
脳梗塞の原因になる心房細動
~血流がよどみ、血栓が脳血管を詰まらせる~ 【第18回】心房細動治療の医療連携② 福岡山王病院ハートリズムセンター長 熊谷浩一郎医師
不整脈には脈が異常に速くなるものや遅くなるもの、時に抜けたり飛んだりするものなど、さまざまなタイプがある。放置していても心配ないものや治療が必要なもの、一度でも起こると命に関わるものなどがあるため、どのタイプか見極めることが重要となる。不整脈の中でも頻度が高いのが脳梗塞の原因となる心房細動だ。高齢社会を背景に日本で増加傾向にあり、患者数は100万人を超える。早期発見・早期治療が必要だが、疾患について知らないという人も多い。
不整脈の種類によって波形も異なる(熊谷浩一郎医師提供)
◇心房が小刻みに震える
心房細動は心房の中に流れる電気信号が乱れることによって起こる不整脈の一つで、心房がけいれんしたように細かく震えるため、心房内の血流がよどみ、心機能が低下する。心房細動で問題となるのは血液の塊である血栓ができることで、この血栓が脳の血管に飛ぶと脳梗塞を起こす。
「心房細動は年齢が高くなればなるほど増えていきます。特に60代から増加傾向にあり、80代では約1割の人が心房細動を持っていると言われています」と福岡山王病院(福岡市早良区)ハートリズムセンター長の熊谷浩一郎医師は話す。
心房細動を起こす危険因子としては、高血圧や糖尿病、心不全や冠動脈疾患などの心疾患がある。その他にも飲酒や喫煙、メタボ(肥満)やストレス、睡眠時無呼吸症候群など、生活習慣に大きく左右されることが分かっている。「特に最近増えているのがメタボと睡眠時無呼吸症候群です」
症状が見られないこともあるが、脈が飛んだり、動悸(どうき)がしたり、胸の痛みを感じたりするほか、息切れやめまい、胸部の不快感やふらつきなどが起こることがある。
①心不全がある
②高血圧がある
③75歳以上である
④糖尿病がある
⑤脳梗塞の既往がある
などが挙げられる。
これらは心房細動による脳梗塞発症リスクの指標となっており(CHADS2スコア)、心房細動がある人で、この中の一つでも該当する場合は脳梗塞の発症リスクが高くなるため、直接経口抗凝固薬が推奨されている。かかりつけ医がいる場合は処方してもらうとともに、心房細動の治療のため、一般的には専門医へ紹介される。
携帯型を用いることで自宅でも簡単に心電図を取ることができる(熊谷浩一郎医師提供)
◇アップルウオッチで発見
心房細動は、持続時間に応じて「発作性」「持続性」「長期持続性」に分類される。初期の段階であれば、発症したとしても数時間後には治まるとされており、自然に止まる心房細動を発作性という。しかし、時間の経過とともに自然には止まらなくなっていく。この状態が持続性で、定義としては1週間以上続いたら持続性と分類される。
「持続性は2~3カ月で止まることもありますが、1年以上続いたらまず自然に止まることはありません。この状態を長期持続性と言い、ここまで来ると電気ショックなどを与えなければ治りません」と熊谷医師。
どの段階で治療を行うかによって予後が変わってくるため、早期発見・早期治療がとても重要となる。
「心房細動は心電図を取ると波形がバラバラなので、すぐに分かります。当院では、動悸がある時に心電図を取ってきてもらうために患者さんに携帯型の心電計を貸し出しています。最近はアップルウオッチで取った心電図を持ってくる人もいます。『アップルウオッチにコメントが出ていた』と言って受診されたのですが、すぐに心房細動と分かる波形が出ていました」
心房細動は症状のない人が4割ほどいると言われているが、「症状がないため病院を受診しない」という人も少なくないという。熊谷医師は「日本のガイドラインでは、65歳を超えたら症状が何もなくても定期的に心電図を取るよう推奨されています。かかりつけ医の所で1年に最低一度は心電図を取ってもらうことをお勧めします」と話している。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)
(2022/05/23 05:00)
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