こちら診察室 知ってる?総合診療科

感染症治療の最前線 
「原因不明の発熱」を診る
【知ってる?総合診療科9】

 「原因不明の発熱」「激しい下痢」「せきが数週間も続く」などの症状で受診される患者さんも多いのが総合診療科です。患者は飛び込みも、他の医療機関からの紹介もあり得ます。これらの症状、どこかで聞かれたことはありませんか。そう、インフルエンザやノロウイルスをはじめとしたウイルス感染でよく見られる症状です。総合診療科は、診断がついていない感染症と直面することが珍しくない、感染症治療の最前線の一つと言えます。 

総合診療科は感染症科と常に連絡を取り合って診療

総合診療科は感染症科と常に連絡を取り合って診療

 ◇エイズかもしれない 

 インフルエンザやノロウイルスのような一般的な病気、麻疹(はしか)水痘(水ぼうそう)のように特徴がはっきりした病気ならば、最初に診療した医師や患者も病名が思い当たるでしょう。

 しかし、発症頻度の少ない病気や特徴があまりない感染症などは「原因不明」として総合診療科に回ってきます。 

 例えば、「数日間発熱と咽頭炎が続くが、インフルエンザは陰性」で原因不明。そんな30代の男性が東京・新宿の医療機関から紹介されてきます。 

 診察してみると、咽頭炎と頸部(けいぶ)のリンパ節腫脹などの症状が認められました。この症状を引き起こす原因としては、まず溶連菌によるへんとう炎やEBウイルスやサイトメガロウイルス感染による伝染性単核球症を考えます。その次に、医療機関のある新宿という地域特性を考えると、エイズを引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症も対象疾患に挙げなければなりません。 

 ◇感染早期に発見 

 その時には患者に同性との性交渉経験があるかどうかを注意深く聞きます。「病気のために念のため聞くのですが、今までに男性との性交渉経験はありますか」と質問すると、経験ありとのことでした。急いでHIVのスクリーニング検査をすると陽性と出たため、専門の診療科に連絡しました。 

 HIVは感染直後に一時的に発熱などの症状が起き、その後自然に症状が収まって長い潜伏期間に入ります。この男性は幸いにも感染後早期に発見できたので、適切な治療を受け続ければエイズになる可能性は極めて低くなるでしょう。 

 東京医科大学病院はエイズ拠点病院となっていますが、HIV感染患者を発見するのは総合診療科が一番多いです。このあたりは、症状で受診する患者を診断するのが主な役割である総合診療科ならではかもしれません。 

日本に寄港する貨物船でエボラ出血熱の感染が疑われる患者が見つかったと想定した訓練

日本に寄港する貨物船でエボラ出血熱の感染が疑われる患者が見つかったと想定した訓練

 ◇デング熱、エボラ 

 「原因不明の感染症」の一つには、日本ではほとんど見かけない熱帯地方などの感染症があります。「一定期間ごとに高熱に襲われる」「熱帯地方で仕事をしていました」という二つの要素が重なればマラリアを疑います。

 しかし、日常診療ではほとんど出会いませんし、熱帯地方への渡航歴がない場合、この症状だけで感染を疑うには可能性が低すぎます。 

 また、新しく発見された感染症も原因不明の疾患となります。重症急性呼吸器症候群(SARS)デング熱、エボラウイルス感染症などです。昔はHIVによるエイズもそうでした。原因もどのような症状がでるのかも不明な段階では、まさに「原因不明の疾患」です。実際、日本で3例目のデング熱患者を診断したのもわれわれの総合診療科でした。

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