こちら診察室 アレルギー性鼻炎の治療最前線

2人に1人がアレルギー性鼻炎
~花粉症は大幅増、ダニ原因などは頭打ち~ (後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授)【第1回】

 日本耳鼻咽喉科学会が実施した2019年全国調査では、アレルギー性鼻炎の有病率は全体として49.2%だった。11年前と比較して約10%増加した。その中でも、特にスギ花粉症の増加率が高い。スギ花粉症の有病率は11年の間に26.5%から38.8%に増加している。スギ以外の花粉症(ヒノキ、イネ科、ブタクサ、ハンノキ、シラカンバなどを含む)も増加傾向にあることが分かったが、ダニやほこりなどを原因とする通年性アレルギー性鼻炎は大きな変化がない。

アレルギー性鼻炎の種類別有病率=「日耳鼻2020;123:485-490」より転載

アレルギー性鼻炎の種類別有病率=「日耳鼻2020;123:485-490」より転載

 スギ花粉症の年齢層別有病率を見ると、10歳未満では3人に1人がスギ花粉症であり、ピークは10歳代の49.5%だ。さらに、20代から50代までの45%以上に症状があり、ほぼ2人に1人が2~4月の3カ月間に日常生活や仕事に支障が出ている。スギ花粉症が社会生活に与える影響は年々大きくなっており、患者一人一人の症状を緩和させるだけでなく、治療によって学習能率や労働生産性を低下させないことも視野に入れ、社会全体として対策を講じなければならない状況だ。

 アレルギー性鼻炎の治療に関しては、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会が発行している「鼻アレルギー診療ガイドライン」が参考になる。原因となる抗原の除去・回避を原則とし、薬物療法やアレルギーの原因物質を少量から投与するアレルゲン免疫療法、手術療法を効率よく組み合わせる。重症度やタイプに基づいた治療戦略を患者の治療目標や通院環境に応じて検討する。

アレルギー性鼻炎の年齢別有病率=同上

アレルギー性鼻炎の年齢別有病率=同上

 一方、国のアレルギー疾患対策には次のようなものがある。患者の増加に伴い、14年にアレルギー疾患対策基本法が施行され、全国の患者を対象とする基本方針が示された。全国どこにいても、一定水準の治療を受けられることを目指している。都道府県レベルではアレルギー拠点病院が設置され、診療のボトムアップを図っている。病院の整備や医師の修練だけでなく、たくさんの患者に適切な治療を提供するためには、より多くのメディカルスタッフの協力が必須になってくる。

 例えば、アレルギーエデュケーター(pediatric allergy educator : PAE)に認定された看護師・薬剤師・管理栄養士は、服薬指導やスキンケア、日常の生活指導を通じてアレルギー治療の重要な役割を担っている。また、最近ではアレルギー疾患治療や管理に関する専門知識を有し、患者や家族への指導スキルを備えたコメディカルスタッフであるCAI(アレルギー疾患療養指導士)が創設された。このような人材を増やすことによって、アレルギー診療を広く充実することが重要な意味を持っている。

スギ花粉の顕微鏡写真。角のような突起があるのが特徴。直径は約30ミクロン

スギ花粉の顕微鏡写真。角のような突起があるのが特徴。直径は約30ミクロン

 抗原の除去・回避というアレルギー治療の原則を顧みれば、原因であるスギ花粉そのものを減少させる方法も重要だ。無花粉スギの植林によって、飛散するスギ花粉の数を減少させる対策も試みられているが、これらは短期的に結果が得られるものではなく、今後も継続的に実行する必要がある。

 国内の花粉症の主な原因はスギ、ヒノキ以外には、イネ科のカモガヤ、オオアワガエリ、さらにキク科のブタクサ、ヨモギなどがある。これらは樹木ではなく草なので、花粉が遠くまで飛散することがなく、生活地域に植生があるかどうかによって症状の有無が決まる。都心でも河川敷や公園、空き地などにイネ科、キク科の植物が生え、その近くを通り掛かったときに症状が出ることがある。

スギの花

スギの花

 それ以外に最近注目されているのが樹木花粉症だ。カバノキ科の植物、具体的にはシラカンバ、ハンノキ、オオバヤシャブシなどは花粉症による鼻や目の症状だけでなく、口腔(こうくう)アレルギー症候群(Oral allergy syndrome; OAS)の原因になる。OASは花粉と共通するアレルゲン(共通抗原性)を含む果物や野菜を食べたときに、唇の違和感や腫れ、かゆみなどが生じるものだ。適切な検査を受けていないと、多数の食物アレルギーと考えてしまうケースもあり得る。

 一時期、六甲山周辺に植林されたオオバヤシャブシが花粉症の原因として問題になった事例があり、スギ、ヒノキと同様に植林によって新たな健康被害が生じた。08年ごろより、国土交通省荒川上流河川事務所が「荒川ハンノキプロジェクト」を推進し、ミドリシジミの幼虫の食草となるハンノキ林の再生を目指す計画を実施している。六甲の例のように植林により、カバノキ科花粉症患者やOAS患者が増えないよう注視する必要があるだろう。(了)

後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授

後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授

【後藤 穣(ごとう・みのる)】
現職 
日本医科大学耳鼻咽喉科学 准教授
日本耳鼻咽喉科学会専門医、専門研修指導医
日本アレルギー学会 常務理事、指導医・専門医
経歴    
1991年日本医科大学医学部卒業
2004年日本医科大学耳鼻咽喉科学 講師
2011年日本医科大学耳鼻咽喉科学 准教授
2014年日本医科大学多摩永山病院 病院教授
2018年日本医科大学付属病院 本院復帰

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