こちら診察室 「無塩無糖」の世界
「大丈夫ですか?」
~無塩無糖によくある質問は~ 第5回
無塩無糖の食生活をしている私に、知人や患者さんがしばしば同じような質問をされます。一つは、「食塩を取らずに体は大丈夫ですか?」というものです。私は「食材以外に食塩は取っていませんが、体は悪くならず、大丈夫です」とお答えしています。その理由は、既にこの連載でお話ししました。食塩を取らなくても、食材中のナトリウム量だけで体に備わったホルモン体液維持システムの働きで電解質バランスや血圧が適正に保たれているからです。
尿中のナトリウム量から食塩摂取量を測定する
◇汗をたくさんかいた時もOK?
もう一つ多いのが、「夏などに汗をかいた時に塩分を取らずに大丈夫ですか?」という質問です。答えは「大丈夫です」。
無塩無糖になる以前は汗に塩分が含まれており、なめると塩味がしました。シャワーで流さないと汗の塩分でかゆくなりました。ゴルフで大量に汗をかいた時、適切な塩分の補給をせず、水だけ飲んだために体がだるくなり、熱中症状態になったことがありました。
無塩無糖になってからは汗に塩分が出なくなり、なめても塩味がせず肌がさらさらしており、かゆくならなくなりました。夏にたくさん汗をかいた時も、塩分を取らず、水分補給だけで済むようになりました。汗に塩分が出ることがなくなり、体内の塩分が適正に保たれるようになったからです。アマゾンの奥地のヤノマミ族は食料を求めて1日平均20キロ歩きますが、体温調節のため汗をかいても食塩の摂取はしていません。私の汗もヤノマミ族並みになったのです。
米国で1944年に行われた研究があります。高温多湿(気温29度、湿度85%)の環境で大量の汗(4~9リットル)をかく重労働(24時間当たり4000~4200カロリーを消費)に適応した男性は、1日5グラムの食塩摂取量で体力を維持できました。塩分補給剤の使用は不要だったと報告されました。レニン・アルドステロンというホルモンの作用により、尿だけでなく汗にもナトリウムが出なくなったのです。
◇高血圧の減塩目標値
日本人の食塩摂取量は徐々に低下傾向にあります。2017年の厚生労働省の国民健康・栄養調査では、1日男性10.8グラム、女性9.1グラムです。
高血圧で治療中の方や健康でも減塩に努めている方がいらっしゃると思います。日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」では減塩目標値を1日に6グラム未満としています。ちなみに欧州高血圧学会と世界保健機関(WHO)では、目標値を同5グラム未満、米国心臓病協会では同3.8グラム未満としています。日本は欧米に比べて目標値が緩いと言えるでしょう。できれば、1日3グラムを目標に減塩をしていただきたいと考えます。
減塩ができているかどうかを知るには、「24時間尿」の測定がお勧めだ
◇食塩摂取量の測定方法
食塩摂取量の評価方法がこのガイドラインに記載されています。摂取した食塩の95%以上が尿中に排泄されますので、尿中のナトリウム量を測定して食塩摂取量を求めます。
方法の一つは、信頼性が高く望ましい方法である「24時間畜尿によるナトリウム排泄量測定」です。24時間畜尿にはユリンメートPという畜尿器を使用します。排尿量の50分の1だけ畜尿し、全量をためる必要がありません。大きさも15センチと小型なので携帯できます。私はユリンメートPで3年間毎日畜尿し、食塩排泄量を測定したことがあります。
もう一つの方法は、24時間畜尿に比べて信頼性はやや低いが、簡便で実際的な評価方法として推奨される「随時尿による測定」です。随時尿は病院外来で1回尿を提出するだけで済みます。しかし、1回の尿だけで24時間の尿を推計するので誤差が生じます。
中尾家のある日の夕食に含まれる食塩相当量
◇お勧めは「24時間尿」
簡便な「随時尿」と手間がかかる「24時間尿」のどちらがお勧めか? 二つの方法を同時測定して調べました。「随時尿」には田中式と川﨑式があり、今回は川﨑式を用いました。高血圧治療中の患者さんに協力していただき、9回測定しました。その結果、「24時間尿」では9回中5回は1日6グラム未満の減塩ができていましたが、「随時尿」では5回とも6グラム以上と測定されました。
そこで、減塩努力中の44歳の内科医(男性)に協力してもらい、10回測定しました。その結果、「24時間尿」では10回中8回、1日6グラム未満の減塩ができていました。一方「随時尿」では、8回とも6グラム以上と測定されました。この内科医の感想は「今まで簡便な『随時尿』を使っていたけれど、この結果にびっくりです。患者さんが減塩できているのか? できていないのか? 減塩指導には使えませんね」でした。手間はかかります。しかし、本当に減塩できているか知りたい場合は「24時間畜尿」をお勧めします。
◇中尾家夕食の食塩相当量
中尾家のある日の夕食を紹介いたします。カロリーは757キロカロリー。食塩相当量はハンバーグ0.196グラム、ポタージュ0.031グラム、サラダ0.004グラム、玄米0.005グラムで、合計0.236グラムでした。ポタージュには通常使われることが多いコンソメや有塩バターは使用していません。
私はハンバーグを2個食べましたので、食塩相当量は0.432グラムになりました。仮に1食当たり約0.2~0.4グラム程度の食塩相当量だとすると、3食で1日0.6~1.2g程度になります。(了)
中尾正一郎(なかお・しょういちろう) 日本循環器学会専門医・日本内科学会認定内科医。1973年、鹿児島大学医学部卒業。米ハーバード大学医学部(循環器内科)、米マウント・サイナイ大学医学部(臨床遺伝学)留学を経て、95年、新しい疾患「心ファブリー病」を医学雑誌「NEJM」で日本から世界に発信。99年、鹿児島県立鹿屋医療センター院長に就任し、日本初の2カ所主治医制による地域医療「鹿屋方式」を構築。NHK「クローズアップ現代」で紹介された。「高血圧専門外来」で対症療法(高血圧薬内服)よりも、原因療法(減塩・無塩)を勧めている。
(2024/05/13 05:00)
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