ダイバーシティ(多様性) Life on Wheels ~車椅子から見た世界~

運動不足になりがちな車椅子ユーザー
~工夫すればなんでもできる~ 【第12回】

 こんにちは。車椅子インフルエンサーの中嶋涼子です。

 車椅子に乗っていると、歩けない分、どうしても健常者より動くことが制限され、食事などに気を使わないとすぐに太ってしまいます。普通の人のように簡単にジムに行くことができないので、体を健康に維持することにおっくうになりがちですが、今は車椅子ユーザーも利用できる設備やプログラムを提供しているユニバーサルジムなどもあり、歩けなくても、工夫次第でいろんなことができると感じています。

マンツーマンでトレーニング

マンツーマンでトレーニング

 ◇ジムで筋トレ

 私は普段は1日1食にしています。3食食べると太ってしまうし、便も毎日出ないからです。友人といる時や、外出先ではそうもいきませんが、人より食べない努力をしています。もともと食べることが大好きで、甘い物が大好きなので、プレッシャーを感じた時や、イベントなどが終わった後のストレス発散に食べ過ぎて太ってしまうのが今の一番の悩み。歩けないことよりも、太りやすいことの方が悩みなくらいです。

 車椅子ユーザーが運動不足を解消する方法としては、自宅でダンベルを使って筋トレをしたり、手が動く手動車椅子の方なら自走で散歩したりするくらいしかありません。私も以前、近所のフィットネスジムに通おうとして見学に行ったら、トイレには車椅子で入れず、介助者がいないと利用できない所ばかりで、行くのがおっくうになってしまいました。

 そんな時、車椅子の友達が通い始めたユニバーサルジムに付き添いで行ってみると、車椅子でも入れるトイレがあり、入り口も段差がなく、マンツーマンでサポートしてくれるジムだったので私も通うことにしました。ほかにも脳性まひや頸椎(けいつい)損傷など、いろいろな障害の方が利用していました。

ボクシングで上半身を鍛える

ボクシングで上半身を鍛える

 このジムのインストラクターは障害当事者について知識があり、その人に合わせたトレーニングプログラムを考えてくれます。私の場合、おへそから下が動かないので、上半身に筋肉を付けなければいけないということで、太りやすいおなかに筋肉を付ける運動、右肩の脱臼癖を治すためにインナーマッスルを鍛える筋トレ、ボクシングなどを組み合わせたメニューになりました。食事制限のアドバイスやプロテインの情報などももらいました。

 インストラクターが毎回付いてくれて、私が大好きな安室奈美恵さんの曲に合わせてダンベルを上げる運動やボクシングをやりました。ただ、マンツーマンのため、月額料金が少し高額で、気軽に利用できるわけではないかもしれません。今は家で週に3回ほど1時間、安室ちゃんの曲をかけて体をひねる運動をしたり、ダンベルを持って二の腕の筋トレをしたりしています。バリアフリーなジムがもっといろいろな所にできて利用しやすくなればいいのにと思います。

空を自由に飛んでいると障害のことを忘れる

空を自由に飛んでいると障害のことを忘れる

 ◇パラグライダーから見た景色

 YouTubeチャンネル「中嶋涼子の車椅子ですがなにか?!」でトレーニングの様子やバリアフリー情報の動画を発信していたら、いろんなお仕事の依頼が来るようになりました。その一つとして挑戦したのがパラグライダーです。

 ある日、「NHKワールド」のドキュメンタリー制作会社から、山形で、車椅子のままできるパラグライダーのドキュメンタリー撮影があるので、それに挑戦してくれる車椅子ユーザーで英語が話せる女性を探しているというオファーがありました。母に相談したら、「危ないし、冬の山形は寒くて心配だから」と止められましたが、私は新しいことに挑戦して、それを伝える幅が広がる大きなチャンスだと思いました。相棒役を務めてくれる外国人女性と一緒に山形県南陽市へ行き、さまざまな観光地を訪れ、最後に南陽スカイパークでパラグライダーに挑戦しました。

 南陽市の観光資源となっている南陽スカイパークでは、ハンググライダー、パラグライダーが年間を通して楽しめます。地元のパラグライダースクールのスタッフが後ろに付いて、離陸から着地まで操縦してくれました。山頂から見た景色は本当に広くてきれいで、私自身、こんな広い世界を見ることができる今の環境に、とても感動しました。車椅子生活になり、引きこもったままだったら見られなかった世界がそこにはありました。

専用の車椅子でパラグライダーへ

専用の車椅子でパラグライダーへ

 映画「タイタニック」に出合い、一歩踏み出して外へ出てみたこと、映画の勉強をしようとアメリカ留学したこと、生きづらかった日本の社会を一緒に変えようと思えた「BEYOND GIRLS(ビヨンドガールズ)」や障害当事者の仲間たちとの出会い、そこから一歩踏み出して一人で活動を始めた今。全ての経験や出会いに意味があり、点と点がつながって線になり、今こうして広い世界が見えるようになった。ここまで支えてくれた家族や友人や先生、出会ってくれた仲間たち、全ての人の存在や助けてくれた過程を思い出して涙が出てきました。

 空を自由に飛んでいると障害のことなど忘れます。障害の有無に関係なく、小さな世界で悩んでいる方々が、パラグライダーで飛びながら広い世界を見たら、きっと悩みが小さく見え、少しだけでも前向きに生きるきっかけになると思います。

 ◇諦めなくてよかった

 私は9歳で突然歩けなくなって、歩けることの大切さを知りました。車椅子の自分はカッコ悪くて、何もできなくて、みんなと違うことが本当に悔しくて、殻に閉じこもり、すべてのことを諦めていました。でも、一歩だけ踏み出してみたら、少しずつ前向きになることができて、新たな出会いの連鎖によって、どんどん世界が広がり、車椅子の自分でも楽しく生きることができることをようやく知りました。

山頂から見えた広い世界

山頂から見えた広い世界

 私は運よく、それを知ることができただけ。でもそれを体感できるまでに20年以上かかりました。パラグライダーから雄大な景色を見た時、走馬灯のようにそんな思いが巡りました。もっともっと自分がいろいろなことに挑戦し、体験し、それをいろいろな手段で知ってもらって、誰かが前向きに生きるきっかけになりたい。その思いがさらに募る瞬間でした。

 私はいつか、スカイダイビングやパラセーリングなどもやってみたいと思っています。スキューバダイビングに挑戦した時は、広い海の中で魚と戯れることができて、車椅子でもいろんなことができるんだという可能性を感じました。ほかにも、車椅子のまま乗れる車椅子バイク、手動装置で運転できるサーキット、車椅子に装置を付けて手でこぐハンドバイクなどなど、歩けなくてもやり方を変えればどんなことにも挑戦できます。

 今、生きづらさを感じ、希望もなく前向きになれない昔の自分と同じような気持ちの人たちに、少しだけでも前向きになれるきっかけを伝えて、私が20年たってからやっと信じられるようになった希望のある生き方を知ってほしい。そう思っています。(了)

中嶋涼子さん

中嶋涼子さん


 ▼中嶋涼子(なかじま・りょうこ)さん略歴

 1986年生まれ。東京都大田区出身。9歳の時に突然歩けなくなり、原因不明のまま車椅子生活に。人生に希望を見いだせず、引きこもりになっていた時に、映画「タイタニック」に出合い、心を動かされる。以来、映画を通して世界中の文化や価値観に触れる中で、自分も映画を作って人々の心を動かせるようになりたいと夢を抱く。

 2005年に高校卒業後、米カリフォルニア州ロサンゼルスへ。語学学校、エルカミーノカレッジ(短大)を経て、08年、南カリフォルニア大学映画学部へ入学。11年に卒業し、翌年帰国。通訳・翻訳を経て、16年からFOXネットワークスにて映像エディターとして働く。17年12月に退社して車椅子インフルエンサーに転身。テレビ出演、YouTube制作、講演活動などを行い、「障害者の常識をぶち壊す」ことで、日本の社会や日本人の心をバリアフリーにしていけるよう発信し続けている。

中嶋涼子公式ウェブサイト

公式YouTubeチャンネル「中嶋涼子の車椅子ですがなにか!? Any Problems?」

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