シックハウス症候群と化学物質過敏症 家庭の医学

 新築の住宅などで、建材や塗料に使われたホルムアルデヒドやトルエンのために頭痛、目・鼻の刺激症状、せき、呼吸困難などを感じたり、発疹(ほっしん)が出ることがあります。伝統的な日本家屋はすきまが多く、自然の換気が高頻度になされていましたが、家屋の密閉度が高まり、また新しい建材の使用がひろまるのと軌を一にして、家屋内での不調をうったえる人の比率がふえてきました。
 一般には症状をうったえるのは女性が多く、同じ環境でもなにも感じない人もいて、感受性には大きな個人差があります。
 なお、シックハウス症候群の場合よりはるかに低い濃度の化学物質で、より強い症状をうったえる化学物質過敏症という病態があります。化学物質過敏症では、いろいろな化学物質のごく微量で発症し、抑うつや不安などの心理的・精神的症状を高頻度にうったえます。同様の症状は洗剤などに含まれる微量の香料や柔軟剤で引き起こされたとうったえる場合もあります。しかし化学物質過敏症の人について、クリーンルームで化学物質と清浄空気をそれと知らせず(二重盲検試験)曝露(ばくろ)させたところ、発症頻度は両者で差がありませんでした。疾患対策でもっとも基本となるのは原因を取り除くことですが、化学物質過敏症の場合、化学物質があると思うだけで発症する場合もあるようで、原因物質を取り除いても改善しないことがしばしばみられます。したがって治療にあたっては、可能なかぎり化学物質への曝露を減らすとともに、心理面への対処も必要な場合があります。

(執筆・監修:帝京大学 名誉教授〔公衆衛生学〕 矢野 栄二)
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