ダイオキシンの影響 家庭の医学

 ダイオキシン類は動物実験の結果、極微量で皮膚発疹(ほっしん:にきび)、肝障害、各種のがん、先天異常などさまざまな毒性を示したことと、一部マスコミがダイオキシンの毒物性について誤解を招く報道を流したことから、人々に不安と恐怖を与えました。その結果、わが国では世界でも例をみないダイオキシン類特別対策措置法が1999(平成21)年に制定され、それにもとづき焼却炉などに対してきびしい規制がおこなわれています。
 しかし実は、環境中のダイオキシンのほとんどは農薬由来であり、かつての農薬製造業従事者、あるいは農薬工場の爆発事故で被曝(ひばく)した人たちは、焼却場から発生するものよりはるかに大量のダイオキシンにさらされていました。
 これらの総計で10万人を超える人々についての15~50年にわたる追跡調査結果では、意外にもにきび以外は死亡率や、がんの発生などであまり顕著な増加はみられませんでした。生殖毒性や免疫毒性についてはまだ議論が続いていますが、動物実験でいわれたほどのはっきりした影響は確認されていません。明確に影響が確認されているにもかかわらず対策が遅れているたばこにくらべ、ダイオキシンは恐怖にもとづく対策が先行した感がありますが、その理由はダイオキシンに対する感受性が実験動物と人間ではまったく異なることを無視したためのようです。現在、母乳中のダイオキシン濃度も着実に減少を続けていることもあり、無用な恐怖心をあおるのでなく、正確な知識にもとづく冷静で合理的な対応が求められます。

(執筆・監修:帝京大学 名誉教授〔公衆衛生学〕 矢野 栄二)
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