寒冷の影響 家庭の医学

 地球温暖化が懸念され、近年高温環境の健康影響が問題とされることがふえていますが、実は現在でも、わが国では夏は死ぬ人が少なく、冬には夏より2割ほど死亡率がふえます。これは全国で月に2万人以上の死亡増加に相当するので重大なことですが、ほとんど議論されることがありません。日本だけでなく世界全体で見ても、健康に適さない温度による死亡の9割は寒冷のためであり、逆に高温が原因となるものは1割にもなりません。
 こうした冬期の死亡の増加はインフルエンザが大流行した年には顕著ですが、呼吸器感染症だけでなく、脳卒中や心臓病をはじめ多くの疾患による死亡が冬期に増加します。暖房器具の普及や住宅の耐寒性能が向上してきたとはいえ、いまだわが国の生活環境の寒冷対策は不十分です。地球温暖化対策としてさまざまな施策がおこなわれていますが、単純に数的な人命保護の観点からは、冬期の寒冷対策がより重要です。ちなみに、イギリスでは高齢世帯に対して、一定温度以上気温が下がると暖房費を補助するという政策がとられています。

(執筆・監修:帝京大学 名誉教授〔公衆衛生学〕 矢野 栄二)
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