門脈血行異常症〔もんみゃくけっこういじょうしょう〕

 門脈は胃、腸、膵臓、脾(ひ)臓などの静脈が合流して肝臓に流れ込む血管で(肝臓の構造とはたらき参照)、その圧は100~200mmH2Oです。その圧が高くなった状態が門脈圧亢進症で、その大部分は肝硬変が原因です。しかし、ほかにも門脈圧が高くなる病気があり、門脈血行異常症と呼んでいます。

■特発性門脈圧亢進症
 肝臓の中の細い門脈の枝が細くなったり、つまったりすることで、門脈の圧が高くなる病気です。原因は不明です。脾臓がきわめて大きくなり、血小板などの血球数が減少しますが、原則的に肝臓の機能は低下しません。
 食道胃静脈瘤などによって消化管出血を起こすことがあり、その予防と治療をおこないます。肝硬変と異なり、肝臓にがんができるのもまれです。大きな脾臓を摘出すると、門脈に血栓ができて、これをくり返すと肝機能が低下する場合があります。このため脾臓を摘出する治療は、特殊な例を除きおこないません。
 難病医療費助成制度の対象疾病(指定難病)で、医療費の公費負担対象になっています。

■肝外門脈閉塞症
 肝臓の外部の太い門脈に血栓ができて、通常の門脈から肝臓に流入する血流が途絶える病気です。通常は血流の途絶えた門脈の周囲に、海綿状の血行路(海綿状門脈変形)ができて、腸管などからの血流が肝臓に流入するため、門脈圧亢進による食道胃静脈瘤などが発達しない場合もあります。胎児のころは門脈は臍(へそ)への血管へとつながっており、子どものころに臍が化膿して、その炎症が門脈へと波及して、血栓ができて閉塞することが多いようです。
 食道胃静脈瘤などによって消化管出血を起こすことがあり、その予防と治療をおこないます。肝硬変と異なり、肝臓にがんができるのもまれです。この病気は、現状(2024年3月現在)では難病医療費助成制度の対象疾病(指定難病)になっていません。

■バッド・キアリ症候群
 肝臓の血液が流れ出る3本の肝静脈や、これが合流して心臓に向かう下大静脈に血栓などができて、その結果、門脈圧が高くなる病気です。抗リン脂質抗体症候群、血液抗凝固因子の先天的な欠損症など血液の固まりやすい体質の人に発症しますが、原因が不明の場合も少なからず存在します。
 血栓が突然できると高度の肝障害が起こり、急性肝不全を発症する場合があります(急性肝不全の項参照)。しかし、大部分は閉塞が徐々に進行し、肝臓はうっ血による肝障害が長く続き、肝硬変へと進展します。門脈のみならず、肝臓内にある細い血管の圧も上昇するため、肝硬変に比較して治療が難しい腹水が出現します。また、食道胃静脈瘤のみならず、肝がんを併発する場合もあります。
 血栓があきらかな場合は、血液が固まるのを抑制する抗凝固療法をおこないます。しかし、大部分は血栓のあとが膜のようになっており、その場合は腕の静脈から心臓を介してカテーテルを挿入し、閉塞部分を破る治療をおこないます。腹水、肝性脳症、食道胃静脈瘤などの治療とともに、肝がんを早期発見するためにスクリーニング検査も必要です。
 難病医療費助成制度の対象疾病(指定難病)で、医療費の公費負担対象になっています。

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