食物アレルギー〔しょくもつあれるぎー〕

 個人の素因にもとづいて、食物やそれに含まれる物質により起こる生体に不都合な反応のうち、免疫反応によるものを食物アレルギーといいます。免疫とは無関係に起こるものとして、食物不耐症、食中毒、ヒスタミン中毒などがあり、これらはアレルギーとは呼びません。
 食物不耐症としては、乳糖分解酵素の欠損や減少による牛乳不耐症が代表的な例です。ヒスタミン中毒は、古いサバ肉などの保存期間中に細菌が産生したヒスタミンという有害活性物質による反応です。
 タートラジンなどの食物着色料によるアスピリンじんましん、アスピリンぜんそくなどの特異体質反応も、食物アレルギーとは別として扱われます(参照:ぜんそく)。

[頻度]
 食物アレルギーは乳幼児に多く、その後成長に伴い症状は消失するので成人には少ないといわれています。
 小児における頻度は乳児で約7.6~10%、3歳で約5%、学童以降で1.3~4.5%とされています。全年齢で平均すると1~2%くらいといわれています。

[症状]
 大別すると、食物を摂取して数分~1時間以内に出現する即時型反応と、それよりあとにあらわれる反応に分けられます。
 即時型反応は個人の臓器の反応性や摂取した抗原の量、種類により症状が異なります。多くは数分以内に口内・咽頭の違和感、腫脹感に続き、全身違和感、腹部の膨満(ぼうまん)感、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)などの消化器症状、皮膚潮紅(ちょうこう)、じんましん、血管性浮腫や結膜炎などの皮膚・粘膜症状、頻脈などの循環器症状、喉頭浮腫、喘鳴(ぜんめい)、鼻炎など気道症状が、単独あるいは複合して出現します。
 重症例ではショックにおちいり血圧が低下する結果、意識を失ったりぐったりすることがあります。非即時型反応の例としては、乳児アトピー性皮膚炎が食物アレルギーで悪化することが知られています。
 特殊な起こりかたをする食物アレルギーとして、食物依存性運動誘発アナフィラキシーと口腔アレルギー症候群があります。
 食物依存性運動誘発アナフィラキシーは、乳幼児には起こりにくく、おもに学童~成人でみられるものであり、原因食物(特に小麦や甲殻類)を食べたあとに運動をおこなうとアナフィラキシーを起こします(参照:アレルギーの型)。原因食物を食べたあと、4時間くらい運動を避けるようにすれば症状は出ません。
 口腔アレルギー症候群はハンノキやシラカバの花粉症がもともとある人において、成分が似ているバラ科の果物(リンゴ、モモ、サクランボなど)を食べると数分以内に口唇(こうしん)、口腔粘膜やのどのはれ、かゆみが生じます。症状が強いとアナフィラキシーを起こすこともあります。花粉食物アレルギー症候群とも呼ばれます。

[発症のしくみ]
 胃腸では、食物を処理し分解、吸収する過程で食物たんぱく、細菌、ウイルスなどの異物にさらされます。胃腸は、胃酸や各種消化酵素によって抗原を処理して栄養素に分解したり、粘液によって上皮をおおったりして抗原の侵入を非免疫学的に阻止しています。
 また、腸管からIgA抗体が分泌され、抗原の侵入を免疫学的にも阻止しています。乳幼児ではこうした機構が十分発達していないことが、食物アレルギーになりやすい一因といわれています。しかし、一般小児や成人でも抗原の一部はそのまま体内に侵入すると言われています。
 大多数の人は食物として摂取する物質に対し、免疫反応が起こらない状態(免疫学的寛容という)になっていますが、これが成立しない場合に免疫反応が起こって食物アレルギーが発症します。
 即時型の反応の大部分はⅠ型アレルギーで起こりますが、即時型以外の反応はIgEが関与しておらず、多くは機序(しくみ)が不明です。

[原因]
 個人の反応性の違いによりいろいろな食物がアレルギーの原因となりますが、わが国においては乳幼児では卵、牛乳、小麦、ソバ、魚類、ピーナッツなど、学童~成人ではエビ、カニなどの甲殻類、サバなどの魚介類や、小麦、果物類、ソバ、ナッツ類などが原因となることが多いようです。近年、木の実が原因となるケースが増加してきています。魚の寄生虫アニサキスがじんましんやアナフィラキシーを起こすこともあります。

[診断]
 食物アレルギーが疑われるときは、食事日記をつけ、食事内容と症状の関係から原因食物を推定します。即時型反応は症状の出る前に口にした食物から抗原を絞り込んで、プリックテスト、血液中の抗原特異的IgE検査をおこないます。強い陽性反応のときは原因である可能性が高いのですが、これだけでは断定できません。
 症状やIgE検査などで原因食物が推定されたら、除去・負荷試験により確認します。除去試験では推定原因食物を7~14日間除去し、症状が軽快・消失するかを観察します。母乳栄養をおこなっている乳児の場合、母親の食事からも除去する必要があります。除去試験で症状が軽快したときは、続いて少量の食物で負荷試験をおこない、誘発されたらその食物が原因と判断します。
 なお、IgE検査で陽性となったからという理由だけで、陽性の食物をすべて除去するのはいき過ぎの対応であり、栄養のバランスをくずしてしまうことが危惧されます。除去・負荷試験は専門医に相談のうえで実施します。

[治療]
 原因食物の除去は治療の大原則であり、除去する食物は必要最小限の品目にとどめるのが正しい対応です。少量なら食べられるのであれば、完全除去はせずに食べられる範囲までは食べてよいと前向きに考えましょう。ソバによるアナフィラキシーショックなどのように、少量で重篤な症状が誘発される場合、特に学童以降や成人では、原因食物を厳密に除去します。卵を食べるとじんましんがすこし生じるといったような症状が軽い場合は、十分に加熱すると摂取可能なこともあります。
 原因食物を除去するときは、それに代わる代用食を与え、栄養不足にならないようにします。1~2年の間、原因食物を完全に除去すると、約3分の1の小児で症状が消失します。特に乳幼児では、成長とともに症状が消失することが少なくありません。一定の期間(小児の牛乳アレルギーなどでは半年~3年間が目安)の除去後に負荷試験をおこない、確認しながら徐々に除去をゆるめていきます。どのくらいの期間除去を続けたうえで負荷試験をおこなうかは、専門の医師とよく相談することをおすすめします。
 最近、小児アレルギーの専門施設では、卵や牛乳に関してアレルギーがある子どもに対して、計画的にすこしずつ食べさせて慣れさせていく治療を推進しているところがあります。この方法は経口免疫療法と呼ばれる最新の治療法ですが、アナフィラキシーを誘発することがあり、開業医のクリニックでおこなうことはむずかしく、研究段階の治療です。見よう見まねで自宅で無理に食べさせることは危険なのでやらないようにしましょう。

□経口抗アレルギー薬
 除去が困難なときや、数多くの食物が原因となっているときは経口抗アレルギー薬を服用しますが、検査法が進歩したおかげで、以前と比べて内服薬を必要とする場面は減ってきています。
 食物アレルギーによってアトピー性皮膚炎が悪化する場合には、皮膚の清潔と、保湿を基本とするスキンケアとステロイド外用薬を中心とする薬物療法もおこないます。

□対症療法
 発症した食物アレルギーの対症療法は、食物以外の抗原によるアレルギーの際の治療と同じです。アナフィラキシーを起こしたことがあれば、アドレナリン自己注射薬をいつも携帯しておくのが望ましいです。アドレナリン自己注射薬には、体重15~30kgの人のための注射と、30kg以上の人のための注射の2種類があります。
 食物によるアナフィラキシーを起こしたことのある人が誤ってその食物を食べてしまったときは、息がしにくいとか、くり返し吐き続けるといった症状が出始めたらすぐに自己注射薬を使うとともに、119番通報をして救急車でできるだけ早く医療機関を受診することが大切です。

(執筆・監修:帝京大学ちば総合医療センター 第三内科〔呼吸器〕 教授 山口 正雄
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