新型コロナウイルス感染症のこころの健康への影響
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行により、わが国も医療危機・社会経済的危機に襲われています。休業や失業、休校や対面授業の削減、自粛生活のなかでの余暇活動の制限などにより生活が一変し、日常の人と人との交流ができなくなるなかで、こころの健康が大きな影響を受けています。依然としてコロナ禍の収束が見えないなかで、精神科医療に携わる人の多くが、うつ病や不安障害、あるいは精神病レベルの障害のリスクが高まっていることを実感していると思います。
COVID-19と精神症状、精神疾患の関連については日本を含めた多くの国で研究されある程度まとめられています(以下、※より)。大まかにまとめますと、(1)何らかの精神障害があるとCOVID-19による入院リスクや死亡リスクが高くなる、(2)気分障害のある人はCOVID-19で入院しやすく、死亡率も高くなる。しかしCOVID-19へのかかりやすさや重症イベントとの間には関係が認められない、(3)統合失調症は入院と死亡のリスクを高めるが、ワクチン接種者ではこのリスクが実質的になくなる、(4)コロナ感染により新たな精神疾患が発症する率は、比較した他の疾患(呼吸器感染症、皮膚感染症、大きな骨の骨折など)よりも高い、(5)2020年の日本の自殺率を2016年~2019年と比較すると、男性では10月と11月、女性では7月~11月に増加していた。自殺率の増加がもっとも大きかったのは10月で、30歳未満の男性、30歳未満と30~49歳の女性で見られた、(6)2020年に抑うつ疾患と不安疾患がもっとも増加したのはパンデミックでもっとも打撃を受けた場所であり、付加的な増加は抑うつ疾患で5320万人、不安疾患で7620万人と見積もられた。両疾患ともに毎日の感染率と人の移動の減少とが疾患の増加率と相関していた。また女性のほうが男性よりも、若い人が高齢者よりも影響を受けていた、などです。
日本精神神経学会や日本うつ病学会など多くの学会が提言や資料を出しています。
2023年5月5日、WHOは3年前に宣言した緊急事態の終了を発表し、以降日常は平常に復しました。しかしCOVID-19の罹患後症状(後遺症)の問題は依然として深刻です。代表的な症状は、疲労感・倦怠感、関節痛、筋肉痛、せき、喀痰(かくたん)、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下など非常に多彩です。後遺症は、罹患してすぐの時期から持続する場合、回復したあとに新たに出現する場合、一度消失しても再発する場合があります。頻度についてWHOは、感染者の約10~20%に発生するとしています。多くが時間とともに改善するようです。特別な治療方法はなく、症状に応じた対症療法が試みられています。
※Toshiharu Furukawa: Significant Scientific Evidences about COVID-19[2022 年 1 月 21 日版]
(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)