骨折 家庭の医学

解説
 骨折は、骨に過大な力が加わったために起こる骨組織の損傷です。
 骨折が起こると強い痛みを覚え、痛みのため折れた部分を動かすことができなくなります。場合によっては外から見てもあきらかにかたちが変わっていて、一目で骨折が起こったとわかることもあります。また、けがをした部位を動かすと、骨折部で折れた骨がぶつかるためにごつごつと音がすることもあります。
 骨折後は数時間以内に強いはれが起こり、やがて内出血のために皮下が紫色になってきます。はれのため皮膚に水疱(すいほう)ができることもあります。また、骨折に伴って血管や神経が損傷されることもあります。手足の骨折では最悪の場合、骨折とともに起こった動脈の損傷のために手足のさきの部分に血液がいきわたらず、組織が死んで壊死(えし)という状態におちいることもあります。
 いろいろな合併症のおそれがあり、また、けが直後からの処置が大事なことが多いので、骨折が疑われる場合には早めに専門の医師による診断と治療を受ける必要があります。なお、よく複雑骨折ということばを耳にしますが、これは意味があいまいで医学的には用いられません。

 健康な人では相当な力が加わらないかぎり骨折は起こりませんが、高齢者などで骨が弱くなっている場合にはわずかな力でも骨折が起こることがあります。また、骨の腫瘍やがんの転移などで骨が異常に弱くなっている場合にも、ごくわずかな力で骨折が起こることがあり、病的骨折と呼ばれます。
 そのほか、スポーツなどで同じ骨にくり返し力が加わり続けると、1回1回の力はそれほど大きくなくても骨にひびが入ることがありますが、これは疲労骨折と呼ばれます。

 子どもの場合、大人と違って骨がやわらかいので、強い力が加わってもぽきんと折れずに曲がるだけのことがあり、若木(わかぎ)骨折と呼ばれます。子どもは一般に折れた骨を治す能力が高く、骨折が生じても大人より短期間で治りますから、手術を必要とすることは多くありません。また、骨折した部位に多少変形が残っていても、成長の過程で自然に矯正される場合も少なくありません。
 半面、成長過程にあるがための問題もあります。子どもの手足の骨には、骨の両端近くに骨が成長するための骨端線(こったんせん)と呼ばれる部分がありますが、ここが損傷されたものを骨端線損傷あるいは骨端線離解骨折と呼びます。骨端線がひどく損傷された場合、骨が正常に伸びることができずに成長に伴って変形が生じたり、左右で長さの違う骨となることがあります。また、大腿(だいたい)や下腿(かたい)の骨折の場合、骨折のあとで骨の成長が進みすぎ、けがをしなかった側にくらべ逆に長い骨となることもあります。

 これ以外に特別な注意が必要な骨折として、開放性骨折関節内骨折、関節周囲の骨折などがあります。

(執筆・監修:東京大学大学院総合文化研究科 教授〔広域科学専攻生命環境科学系〕 福井 尚志)