尿路上皮がん(UC)は膀胱がんの90%以上を占め、局所進行/転移例の術後再発率は約半数に上るためEur Urol 2017; 72: 801-813)、薬物療法が重要となる。国内外のガイドラインではシスプラチンを基盤とした化学療法が推奨されているが、不適応例や副作用などの課題がある。メルクバイオファーマが6月19日に開催したメディアセミナーで、虎の門病院(東京都)臨床腫瘍科部長の三浦裕司氏が、UCに対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)をはじめとしたがん免疫療法の展望を解説した。(関連記事「未治療の進行尿路上皮がんに新たな選択肢」「 尿路上皮がん治療はICI維持療法で変わるか」)

GC/GCarbo療法に課題

 経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)による初期治療後、約1割が局所進行/転移UCに移行するといわれる(Eur Urol 2017; 72: 801-813)。

 局所進行/転移例の一次治療について、かつてはメトトレキサート+ビンブラスチン+ドキソルビシン+シスプラチン(MVAC)の多剤併用療法が主体だったが、2000年以降効果が同等で副作用が少ないゲムシタビン+シスプラチン(GC)療法が主に用いられ、腎/心機能低下例、高齢患者などシスプラチン不適応例に対してはゲムシタビン+カルボプラチン(GCarbo)療法やゲムシタビン単剤療法が行われる。しかしこれらプラチナ製剤による投与初期の効果は持続しにくく、継続的使用による副作用が発現しやすいなどの課題がある。

 このような背景の下、抗PD-L1抗体アベルマブによる維持療法における一次治療の効果維持について有効性と安全性を検討する非盲検第Ⅲ相JAVELIN Bladder 100試験が行われた。

 その結果、主要評価項目の全生存(OS)中央値について、支持療法単独群の14.3カ月(95%CI 12.9~17.9カ月)に対し、アベルマブ+支持療法併用群は21.4カ月(同18.9~26.1カ月)と有意な延長を示した〔死亡のハザード比(HR)0.69、95%CI 0.56~0.86、P<0.001、N Engl J Med 2020; 383: 1218-1230)〕。

 同試験の結果に基づき、根治切除不能UCにおける化学療法後の維持療法としてアベルマブの使用が承認され、国内外のガイドラインでも化学療法による一次治療後に病勢の進行を認めない症例に対するアベルマブ維持療法を推奨している。

 また、局所進行/転移例に対する二次治療については、タキサン系薬剤などによる治療が適宜行われていたが効果は十分でなかった(Lancet Oncol 2010; 11: 861-870)。そこで、抗PD-1抗体ペムブロリズマブと化学療法を比較検討する第Ⅲ相KEYNOTE-045試験が実施され、ペムブロリズマブ群でOS中央値は10.3カ月と化学療法群(7.4 カ月)に比べて有意な延長を示し、奏効率で有意な改善が示された。この結果に基づいて局所進行/転移例の二次治療に対してペムブロリズマブが承認され、ガイドラインでも推奨されている。

 アベルマブによる維持療法やプラチナ製剤による一次治療後の再発/転移UCに対するペムブロリズマブの有効性が示されたことなどを受け、局所進行/転移UCの一次治療における抗PD-L1抗体アテゾリズマブやペムブロリズマブの有効性と安全性を検討するIMvigor130試験、KEYNOTE-316試験が行われたものの、有意差は示されなかった。三浦氏は「二次治療で奏効した免疫療法が一次治療で同様の効果を示すとは限らない。がん種、薬剤の種類、投与法を考慮し、慎重に検討を進める必要がある」と述べた。

シスプラチンを使わないUC治療が可能に

 こうした中、2023年、根治/切除不能UCに対する一次治療として抗ネクチン-4抗体微小管阻害薬複合体エンホルツマブ ベドチン(EV)とペムブロリズマブの併用療法の有効性と安全性を検討する国際共同第Ⅲ相非盲検EV-302/KEYNOTE-A39試験が行われた。

 同試験では未治療の局所進行/転移UC 886例を、化学療法群444例とEV+ペムブロリズマブ併用群442例に1:1でランダムに割り付けて比較。中央値17.2カ月の追跡期間において、主要評価項目の無増悪生存(PFS)中央値は、化学療法群の6.3カ月に比べEV+ペムブロリズマブ併用群で12.5カ月と有意に延長した(HR 0.45、95%CI 0.38〜0.54、P<0.001)。

 もう1つの主要評価項目であるOS中央値についても、化学療法群の16.1カ月に比べEV+ペムブロズマブ群は31.5カ月と有意な延長が認められた(HR 0.47、95%CI 0.38〜0.58、P<0.001)。三浦氏は「シスプラチンを用いないレジメンでPFS、OSの改善が示されたことは歴史的な進歩だ」と評価した。

 また同氏は局所進行/転移UCに対するプレシジョンメディシンについて、FGFR遺伝子変異例に対するFGFR阻害薬erdafitinibの有効性を示した国際第Ⅲ相試験の結果を紹介。266例の患者をerdafitinib群136例、化学療法群130例にランダムに割り付けて比較した(追跡期間中央値15.9カ月)。主要評価項目のOS中央値は、化学療法群に比べerdafitinib群で有意に長かった(7.8カ月 vs. 12.1カ月、HR 0.64、95%CI 0.47~0.88、P=0.005)。またPFS中央値も化学療法群に比べてerdafitinib群で長かった(2.7カ月 vs. 5.6カ月、同0.58、0.44~0.78、P<0.001)。Grade 3/4の治療関連有害事象の発生率は両群で同程度(46.4% vs.45.9%、化学療法群46.4%)、死亡に至った例はerdafitinib群で少なかった(5.4% vs. 0.7%、N Engl J Med 2023; 389: 1961-1971)。

 以上の経緯を踏まえ、同氏は「今後さらに治療標的となる遺伝子変異が特定されれば、シスプラチン不適応例に対する治療の選択肢が増える可能性がある」と展望し、「臨床現場における新薬活用のためには、腫瘍内科医を含めた多職種によるチーム医療が不可欠である」と付言した。

服部美咲