社会的孤立は、認知機能低下および認知症発症の危険因子である。日本は人口の高齢化に伴い認知症の有病率が上昇傾向にあり、社会的孤立との関連が指摘されるが、これまで社会的孤立と高齢者の脳の構造や形態的変化との関連を評価した縦断的研究の報告はない。東京都健康長寿医療センター研究所研究副部長の村山洋史氏らは65歳以上の地域在住高齢者のコホート研究のデータを用い、海馬容量の変化と社会的孤立の関連を検討。社会的孤立と認知症の関連には海馬の萎縮が介在し、社会的孤立のタイプによって萎縮の方向性が異なることを見いだしたと、Arch Gerontol Geriatr2024; 129: 105642)に報告した。

社会的ネットワークに基づく孤立は12.7%、世帯構成に基づく孤立は8.6%

 解析の対象は、新潟県十日町市で実施した世代間神経環境影響研究(NEIGE study)に参加し、2017年および2021年に脳磁気共鳴(MRI)画像検査を受けた65~84歳の地域在住者279例(男性47.6%、平均年齢73.0歳)。

 社会的孤立の指標として、他者との交流頻度(社会的ネットワーク)と世帯構成について検討した。

 他者との交流頻度は、別居親族、友人、近隣住民との直接交流または電話、ファクシミリ、メールなどによる接触頻度が週1回未満を社会的孤立と定義し、週1回未満、週3回未満、週4回未満、週4回以上の4群に分けて解析した。世帯構成は、同居者なしを社会的孤立と定義した。社会との接触が週1回未満は12.7%、同居者なしは8.6%だった。

他者との交流頻度少ないと海馬容量の減少幅大、独居だと減少幅小

 逆確率重み付けを用いた多変量回帰分析の結果、他者との交流頻度が週4回以上の者に比べ週1回未満の者では海馬容量の減少幅が大きかった。また、同居者がいる者に比べ独居者は海馬容量の減少幅が小さかった。他者との交流頻度および世帯構成と脳灰白質総体積との関連は認められなかった()。

図.社会的孤立と海馬容量の変化の関連

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(東京都健康長寿医療センタープレスリリースより)

 これらの結果を踏まえ、村山氏らは「他者との交流頻度に基づく社会的孤立が海馬容量の減少と関連していたのは、他者との関係が希薄であることで日常的な脳への刺激が少なかったためと考えられる。一方、世帯構成に基づく社会的孤立例で海馬萎縮幅が小さかったのは、自身で生活を営むことが脳に刺激をもたらした可能性がある」と考察。「社会的孤立の種類を把握し、それに応じた対策を講じることが重要だ」と付言している。

編集部・服部美咲