日本医療機能評価機構は昨日(5月15日)、医療事故情報収集等事業「医療安全情報No.222 カテコラミン製剤の持続投与の中断」(以下、安全情報No.222)を公式サイトに掲出。シリンジポンプでカテコラミン製剤を持続投与中、注射器の交換が遅れ、患者の循環動態に影響があった事例が2019年1月~25年3月に10件報告されており、事例の背景や医療機関における取り組みを紹介した。(関連記事「カリウム製剤の急速静注で心停止が発生」)

事例の背景は優先順位の誤りなど

 ドパミン、ドブタミン、アドレナリン、ノルアドレナリンなどのカテコラミン製剤は、急性心不全、慢性心不全の急性増悪時、ショックなどによる血圧低下時に用いられるが、薬剤に依存して循環動態を保っている例が多く、投与中断により血圧や心拍数の低下、心停止などを引き起こすことがある。

 持続投与中に注射器を交換する際は、投与中断により循環動態に影響が出ないよう注意が必要だが、注射器の交換が遅れ、患者の循環動態に影響があった事例が2019年1月~25年3月に10件発生している。

事例

①患者Xにシリンジポンプでノルアドレナリンの調製液を9.6mL/hで持続投与していた。12時30分頃、担当看護師はノルアドレナリンの調製液の残量が15mLであることを確認し、休憩後に注射器を交換することにした。休憩から戻った担当看護師は、緊急入院することになった患者Yの対応を優先し、ノルアドレナリンの注射器を交換しなかった。14時17分頃、患者Xのシリンジポンプの過負荷アラームが鳴り、血圧が30mmHg台に低下していたため、すぐに注射器を交換した()。

②患者Xにシリンジポンプでノルアドレナリンの調製液を10mL/hで持続投与していた。21時10分頃、看護師Aはシリンジポンプの残量アラームが鳴ったため消音し、担当看護師Bに伝えた。担当看護師Bは自分で注射器を交換すると返答したが、ノルアドレナリンの投与中断による影響を知らず、患者Yの対応を優先した。5分後に過負荷アラームが鳴った。担当看護師Bは患者Yの対応中であったため、看護師Aがノルアドレナリンを調製し、注射器を交換した。投与を再開した時点で、患者Xの血圧は40mmHg台に低下していた。

図.事例のイメージ

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(安全情報No.222より)

 安全情報No.222では、事例の主な背景を以下のようにまとめている。
優先順位の誤り:看護師は、休憩後にカテコラミン製剤の注射器を交換するつもりであったが、緊急入院する別の患者の対応を優先した。看護師は、カテコラミン製剤の注射器の交換が必要なことは把握していたが、他の業務を優先した。 
知識不足:看護師は、カテコラミン製剤が循環動態に影響を及ぼす薬剤であると知らなかった。
伝達不足:看護師Aがシリンジポンプの残量アラームを消音した際、担当看護師Bに伝えなかった。

 また、事例が発生した医療機関での事後の取り組みとして、①患者に投与しているカテコラミン製剤の種類や交換時間を各勤務帯で共有する、②注射器内の薬液の残量と流速から交換時間を推定し、余裕を持って交換する、③カテコラミン製剤の持続投与が中断すると、患者の循環動態に影響が及ぶことを周知する-を紹介し、自施設に適した取り組みを検討するよう促している。

(編集部・畑﨑 真)