ヘルスコミュニケーションDr.純子のメディカルサロン

「死にたい」という叫びにネットで応対
~気軽に相談 SNSカウンセリングとは~ 杉原保史・京都大学学生総合支援センター教授

 ◇頼れるのはほぼ言葉だけ

 海原 「死にたい」という相談者に対して、相談員が発信するメッセージが先生の著書で紹介されていて、とても印象的でした。こうしたメッセージは、もしかすると、対面よりSNSの方が、言葉がそのまま伝わるような感じもしましたが。

 杉原 そうですね、確かにSNSによるカウンセリングは、もっぱら、ほぼ言葉に頼って行いますので、言葉の力が特に重要になります。

 人間においては、言葉の持つ力は、ときにとても大きなものです。「ハリー・ポッター」に登場するダンブルドア校長先生も「言葉は尽きることのない魔法の源じゃ。傷つけることも癒すこともできる」と言っていました。

LINEを通じて自殺願望のある人の相談に応じる「社会的包摂サポートセンター」の相談員=2018年4月、東京都内。一部画像処理しています

 対面の相談でも言葉は重要ですが、ただ、そこには表情、視線、声のトーン、ジェスチャーなどの要素が加わってきますので、言葉そのものの影響力は相対的には小さくなると言えるでしょう。

 対面の相談を舞台演劇のようなものだとすれば、SNS相談は小説のようなものだと言えるでしょうね。

 小説の一節が心に染み入り、人の人生に大きな影響を及ぼすことがあるように、SNSカウンセリングでやり取りされる言葉もまた、相談者の心の深いところに届くことを願います。

 海原 SNSの相談内容はどんな内容が多いのでしょうか。年代的には、どのような割合ですか。

 杉原
 相談内容は、その相談事業の性質によっても異なります。最近の資料に基づいてお話ししますと、文科省の予算で行われている中高生向けの相談事業であれば、友人関係の悩みが最も多く、学業・進路の悩み、いじめ問題がこれに続きます。

 厚労省の予算で行われている自殺予防対策の相談事業では、メンタル不調に関する悩みが最も多く、次いで家族についての悩み、学校についての悩みとなっています。

 ◇いじめ相談が多い

 海原 SNSカウンセリングの特徴とは、どういうものでしょう。

 杉原 SNS相談だからこその相談内容の特徴としては、電話や対面では相談しづらいことが語られやすいということがあります。

 例えば、中高生向けのSNS相談では、いじめの相談はおおむね7~10%です。

写真はイメージです(AFP時事)

 全国の学校に配置されているスクールカウンセラーに寄せられた相談のうち、いじめに関する相談は1.2%(文科省の「学校における教育相談に関する資料(2015年)」)であったことを考慮すれば、これは、かなり高い比率だと言えます。

 いじめられている児童・生徒が、そのことを人に打ち明けるのには、相当に高い心理的ハードルがあるのですが、SNS相談はそれを打ち明けやすくさせるのです。

 同じことは、児童虐待についても言えます。SNS相談には、虐待されている子ども自身からの相談や通告が寄せられることもあります。

 子ども自身が虐待されていると打ち明けるのには、やはりきわめて高いハードルがあります。SNS相談だと、打ち明けやすくなるのです。

 今後、児童虐待の通告・相談のシステムにおいて、SNSによる相談窓口はますます重要なものとなるでしょう。

 SNS相談にアクセスしてくる人を年代別に見ると、若年層からのアクセスが多いです。18年3月に行われた自殺予防相談では、10〜20代が全体の8割以上を占めています。とはいえ、40代、50代の人からもアクセスはあります。

 
◇「相談」の次は「支援」

 海原 若い世代が圧倒的に多いのですね。SNSカウンセリングを継続的に続ける方も多いのですか。SNSカウンセリングから他の医療機関などにつなぐのは、どんな場合でしょうか。

 杉原 さまざまなSNS相談事業における利用状況の統計を概観しますと、1カ月ぐらいの単位で見て、1回だけ相談して終わる利用者が半分以上です。多くの利用者は1〜2回の相談で終わるのです。

 週に1回以上の頻度でしばらく継続的に相談してくるのは、おおよそ利用者の1〜2割といったところです。

 ただし、相談が非常に混み合い、アクセスしてもなかなか相談に入れない相談事業もあるので、可能ならもっと繰り返し相談したいと思っている人はもう少し多いのかもしれません。

 少数ながら、毎日のように相談に訪れる頻回相談者も存在します。相談は、頻度が高ければ高いほど役に立つ、というわけではないですから、頻回相談者の場合、お話を伺いながら、利用の仕方そのものを調節していきます。

 SNSのやり取りだけで終わることができる相談はいいのですが、そこでは終わらないような相談の場合、さまざまな支援リソースにつなぎます。

 例えば、いじめ被害の相談の場合、学校での早急な対応が必要だと判断されれば、相談者と話し合い、了解を得た上で、教育委員会を通して学校での見守りを強めてもらったり、信頼できる先生に介入してもらったりすることがあります。

 児童虐待の被害の訴えであれば、やはり相談者の了解を得た上で、児童相談所に連絡を取り、対応をお願いすることがあります。

自殺した女子生徒が描いた自画像を置いて記者会見する遺族=2019年4月、神戸市中央区(本文と直接関係はありません)

 児童虐待の場合、具体的な被害が明らかで深刻なものであれば、本人の了解がなくても、児童相談所に通告することもあり得ます。

 ◇「死にたい」という相談

 海原 「もう死にたい」という相談には、どう対応するのですか。

 杉原 今にも自殺を決行しようとしていることが確かであると推察される相談であれば、警察に保護をお願いすることがあります。

 この場合も、本人の許可を得て警察に連絡することが原則ですが、急を要する深刻な事態であれば、本人の許可が得られなくても、そうすることがあり得ます。

 相談者は、メンタルヘルス上の問題を抱えていることもあります。うつや不眠を抱えながらも、自分が医療の対象となり得る状態だという認識が希薄で、苦しみに耐えて生活しているという方もいます。

 医療が助けになると考えられる症状や訴えが認められれば、その症状や訴えについて確認し、相談者の希望も聞いた上で、医療機関の情報を提供し、受診を勧めます。

 他にも、相談者の相談内容に応じて、労働局の相談窓口を紹介したり、ひきこもり支援の行政窓口を紹介したり、警察の被害者相談窓口を紹介したりなど、さまざまな支援リソースの情報を提供し、相談者がそこにつながれるようサポートしていきます。

 いずれの場合でも、相談者は単に他の相談窓口の情報を求めているわけではなく、たいていは、SNSで悩みをきちんと聞いてほしい、理解してほしいと願っています。


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