Dr.純子のメディカルサロン
「死にたい」という叫びにネットで応対
~気軽に相談 SNSカウンセリングとは~ 杉原保史・京都大学学生総合支援センター教授
海原 SNSカウンセリングだからできること、ということがあれば、教えてください。このカウンセリングをして良かった、と思えるのはどんなときでしょうか。
杉原 SNSカウンセリングの強みは、その敷居の低さです。誰にも知られず、声も出さず、顔も見られずに相談できるのです。
ひどく苦しみながらも、対面の相談、電話の相談はできないと感じ、一人で苦悩を抱えている人がアクセスしてきてくれた時、SNSで相談を受けることができて良かったと思います。
杉原教授の近著「SNSカウンセリング・ハンドブック」の表紙
児童虐待の被害を受けている当事者、いじめられている当事者、性的マイノリティーの方、こうした方々から、SNSだからこそ相談できたという声を聞くと、やはりSNSカウンセリングはこの社会に必要なんだと強く思います。
中学生と1時間にわたって、しっかり相談ができたときにも、SNSカウンセリングをして良かったと思います。
対面相談の経験から、中学生と面と向かって悩みごとについて対話するのは、とても難しいと知っているからです。どういうわけか、彼らはSNSでは、とても素直に心を開いて話してくれます。
スクールカウンセラーとして豊富な相談経験がある相談員も、中高生がSNSでは、対面よりもおしゃべりであることに驚くことがあります。こうした事実に触れたときにも、やはりSNSカウンセリングをして良かったなと思います。
これらは、SNSカウンセリングをして良かったと強く感じる場合の例ですが、こうした例に限らず、対面とも電話とも異なるSNSによって相談を行うことの意義は、さまざまなところで実感します。
◇多様な人たちが相談
海原 SNS相談にアクセスする方たちの特徴はありますか。
杉原 SNS相談では、対面の相談では決して出会わないような日常的で健康な悩みの相談にもよく出会います。
普通に生活できていて、特に大きな問題はないのだけれども、生きている意味が分からないという悩み。友だちと喧嘩してしまったけど、どう謝ったらいいかが分からないという悩み。将来の進路をめぐる、若者らしいごく当たり前の悩み。
一方では、かなり重いメンタルヘルス上の問題を抱えている方からの相談もあります。
精神科クリニックに通いながら、また対面の心理カウンセリングに通いながら、寂しく、つらい夜の時間を持て余し、ひとときの話し相手を求めて、毎晩のようにアクセスしてくる方がそうです。
経済的問題、雇用の問題、夫婦関係の問題、家庭内暴力の問題、家族メンバーの依存症や精神疾患の問題など、複雑で多重の問題を抱えた家庭環境を背景に持つ中高生からのアクセスもあります。
こうした家庭環境にある子どもたちは、とてもつらく苦しい生活を送っていても、保護者の生活に余裕がないため、相談機関や医療機関に出かけて行くことが難しいのです。そうした子どもたちも、SNSでならつながれる場合があるのです。
このように、SNS相談は非常に間口が広く、敷居が低く、多様な人に開かれています。
その全てに応えていくことは大変ですが、それでもなお、これまで出会いたくてもなかなか出会うことができなかった、幅広く多様な方々からの切実な相談を受けていると、SNSカウンセリングを始めて良かったなと思います。
◇最初は専門家も冷ややか
海原 SNSカウンセリングの未来についてのお考えを聞かせてください。
写真はイメージです(EPA時事)
杉原 SNSカウンセリングは、まだその発展の緒に就いたばかりです。ほんの2年前まで、SNSカウンセリングは日本の社会にほぼ存在していなかったのです。
その最初の試みでさえ、多くの専門家からは、冷ややかに見られていたのです。現在、SNSカウンセリングには大きな需要があることが理解され、差し当たり、重大な問題なく運用できているという事実が共有され始めたところです。
しかし、今なされているSNSカウンセリングは、まだまだSNSというメディアのポテンシャルを十分に生かしたものとはなっていません。
現在のSNSカウンセリングは、対面や電話による従来の相談の仕方を踏襲して発展させられてきたものであり、必ずしもSNSというメディアに最適化されたものではありません。
◇さらに新しい形の支援へ
海原 先生はSNSの機能をより生かしたカウンセリングを目指していると伺いました。
杉原 そうですね。たとえばLINEでは、友だち登録してくれた人全員に一斉にメッセージを送信することができます。この機能を活用すれば、悩みを抱えている大勢の人たちに、有用な情報を簡単に届けることができます。
また、LINEにはタイムラインという機能もあり、そこでは、友だち登録してくれた人が見たいときに見られるメッセージを適宜、投稿することができます。
LINEでは、1対1で対話するだけでなく、グループでのトークも可能です。ネット上のコンテンツを貼り付けて届けることも可能です。写真や動画を送ることも容易にできます。
こうした機能をフルに活用しながら、電話や対面の相談とも組み合わせていけば、伝統的な心理カウンセリングの概念には収まらない、新しい形の支援が展開できるようになるでしょう。
SNSカウンセリングには、まだ手付かずの大きな可能性があります。
柔軟な発想の、才気あふれる、未来志向の支援専門家の方々、テクノロジーの専門家の方々、さまざまな関連分野の研究者の方々、この領域にコミットしている政治家や行政関係者の方々などなど、さまざまな方面の多くの方々の協力と参加をお願いします。
苦悩を抱えて失意に沈んでいる人たちへの支援に、温かくパワフルなイノベーションをもたらすことが私の希望です。
※SNSカウンセリングに関するお問い合わせは「全国SNSカウンセリング協議会」のホームページへ
杉原 保史 (すぎはら・やすし)
京都大学学生総合支援センター長・教授。教育学博士、公認心理師、臨床心理士。
京都大学教育学部、京都大学大学院教育学研究科にて臨床心理学を学ぶ。大谷大学文学部専任講師、京都大学保健管理センター講師等を経て現職。
(2019/07/09 06:00)