特集

乳がんと「共生」の時代
治療に経済支援の拡充を

 早期発見の啓発や治療法・薬剤の向上が進み、再発しても治療しながら仕事を継続することが可能なりつつある乳がん。そうした環境を踏まえて「がん治療と共に自分らしく生きる」と題したセミナーが都内で開かれた。がん研究会有明病院乳腺センター乳腺内科医長の原文堅氏は、新薬の開発などによる治療費上昇を指摘した上で、「若い非正規雇用の患者が職を失い、『治療費がないので治療をやめたい』と言うケースもある」と語り、患者への経済支援の拡充が求められていると強調した。

乳がんはどのような病気か=NPO法人「キャンサーネットジャパン」資料を基に作成

乳がんはどのような病気か=NPO法人「キャンサーネットジャパン」資料を基に作成

 ◇完治、再発防止を目指す

 乳がんは30歳代から増え始め、50歳前後から60歳前半に多く発症。20~30代の「若年性乳がん」が全体の6~7%を占める。乳腺専用のX線検査マンモグラフィー検査)などで、乳がんが乳腺にとどまっている初期にみつかれば、命の危険はあまりない。がんを摘出し、必要に応じて薬物治療を行うなどして完治を目指す。乳腺から周囲に広がっていても、乳房の範囲ならば薬物療法や乳房の切除などを行って完治、再発防止を目指した治療を進める。

 しかし、他の臓器へ移転した状況(ステージ4)となると、「様相ががらりと変わる。テレビでは『余命~』というが、診察室では『完治を目指すのは難しい』と患者に伝える」と原氏。それでも、近年開発された多くの薬を使えるため、「(数年にわたって)がんとの共存が十分できることを知っていただきたい」と語る。

乳がんの治療法=NPO法人「キャンサーネットジャパン」資料を基に作成

乳がんの治療法=NPO法人「キャンサーネットジャパン」資料を基に作成

 ◇症状に合わせて選択

 治療は、抗がん剤のほか、ホルモン治療、分子標的薬などを患者の症状に合わせて一人ひとり選択していくことになる。

 ホルモン療法は、ホルモン受容体のある患者が対象。女性ホルモンの分泌や働きを妨げることによって乳がんの増殖を抑える仕組みで、原氏は「全体の6~7割で効果がある」とした。また、がん細胞の増殖に関わるHER2タンパクを過剰に持っている持つ場合などは、分子標的薬の効果が大きいという。

 ◇目覚ましい向上

 日本女性の11人に1人が乳がんを患う時代だが、予後が良いこともあって治療開始後の5年生存率は90%を上回っており、80~90%は完治する。5年経過しても再発がなければ、例外はあるものの完治したと判断がされる。

 しかし、再発した場合は他臓器に転移したステージ4のケースがほとんど。このため、有明病院乳腺センター長の大野真司氏は「患者はいつ再発するか分からない恐怖、再発したら死の恐怖と共に過ごしていかなくてはいけない」と強調した。

 それでも、ホルモン治療、分子標的薬など治療法の向上は目覚ましい。「1999年までは再発した患者の半分が1年で命を落としていた。今は5年たっても半分以上の患者が生きている」と大野氏。多数の女性が乳がんと共に生きていく時代になっている、と指摘した。

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