Dr.純子のメディカルサロン

「ブルーマン」を成功に導いた日本人がNYで乗り越えてきたもの 演劇プロデューサー・出口最一さん


 ◇ばかにされ門前払い

 海原 それは大変。ブルーマンの時はどうだったのですか。

 出口 小さなキャバレーで彼らのショーを見た時、「これを絶対やりたい。これはアートだ」と思いました。

 その頃、ちょうど日本はバブルの真っ最中だったから、ニューヨークにある、いろんな日本企業に声を掛けました。でも、「なんだ、あんなもの」という反応でした。

 「こんなものが受けるわけがない」とずいぶんと、ばかにされたりもしましたし、日本のテレビ局や大手広告代理店にアプローチした時は、門前払いもされました。

 口からペンキを吐いたり、暴れたりで、今までにないショーですからね。

 でも、「絶対、これをやりたい」「悔しいけど、自分の目に間違いはない」と思っていました。絶対、いつか日本上演もできると信じていました。

人気番組「The World’s Best」の収録最終日にベルギー代表の審査員(右)と【出口さん提供】

人気番組「The World’s Best」の収録最終日にベルギー代表の審査員(右)と【出口さん提供】


 海原 少しずつ支援者を見つけて、やっとオフブロードウェイの劇場にかけることができたんですよね。

 出口 そうです。1991年11月です。最初は客足が伸びず、1カ月半で閉めなければならなくなりそうで。

 マネジャーから「閉めろ」と言われて、投資家に再び支援を頼んだのですが、うまくいかず、ついに母親に頼み、家を担保にしてお金を借りてもらい、あと1カ月だけ、公演を続けることができました。


 ◇自分の目を信じる

 海原 その1カ月が転機になったんですね。

 出口 少しずつ、口コミで客足が伸び、劇場の前にリムジンが並び始め、ビジネスマンやモデルなどが来るようになり、J.F.ケネディ(元大統領)の息子も見に来るようになったんです。

 そうすると、途端にメディアの反応が変わり、評価が上がったんです。これで勉強したのは「絶対、自分の目を信じること」でした。


 海原 今は、新しい作品「Trip of Love」をさらに続けるための資金調達をしているんですね。「Trip of Love」は1960年代のファッションやアートなどを扱っていますね。


 出口 ミュージックビデオを見ているようなミュージカルを作りたいというコンセプトなんです。マイケル・ジャクソンの「スリラー」は、一つの作品の中にドラマがあったでしょ。ああいう感じで60年代を表現したいというものです。

 あの頃のファッションやデザインはその後、70年代のポップな、大阪万博の「太陽の塔」のイメージにつながったわけです。それを背景に「愛を見つけに行く旅」というテーマを盛り込んだのです。


 海原 「Trip of Love」は2015年、オフブロードウェイで11カ月間のロングラン公演でしたね。この作品は、ブロードウェイ舞台演出振付協会のジュ―・A・キャラウェイ賞を受賞されていますね。資金はかなりかかったんでしょ。


 出口 14億円です。


 ◇進む人あり、倒れる人あり

 海原 8年がかりでしたよね。ちょうど、これから資金集めという時に、出口さんとお会いしたんですね。作品をつくるというのは大変だけど、楽しいですね。それに、それをライブで見るということを皆さん、もっとしてほしいです。

ミュージカル「Trip of Love」の舞台【写真提供:©️Matthew Murphy】

ミュージカル「Trip of Love」の舞台【写真提供:©️Matthew Murphy】


 出口 いくらAI(人口知能)が発達しても、人はやはり、人が歌い、人がパーフォマンスするのを直に見たいものです。全員がロボットで、全てが完璧なパフォーマンスを見たって、全然、面白くないでしょう。

 部屋の中に閉じこもるのではなく、外に飛び出して、直に会場でなくては体験できないライブを体感してほしいと思います。

 現在は「Trip of Love」をラスベガスやロンドンで公演するために資金を集めています。応援していただける方は、フェイスブックでつながりましょう。


 海原 出口さんは、いつも何かやろうとすると、壁に遮られていますね。米国に奨学金で来ようとすると、反対されて、お金をもらえなくなる。

 ブルーマンの公開にこぎつけると、資金が底をつく。新しい作品をつくって資金集めを始めると、リーマンショックで景気が悪くなる。

 今も、「Trip of Love」の次の公演を企画すると、新型コロナウイルス肺炎で、経済状態の悪化が懸念されています。いつも何かに阻まれながら歩んできていますね。


 出口 ぎりぎりに追い詰められても、撤退するのではなく、もう一つ、踏みとどまって、自分を信じるという感じですね。

 今までに詐欺師のような人、人種差別、パワハラ、仲間外れ、いい加減な約束、係争、嘘のデマやせびり、嫌がらせなど、いろいろな状況に出あいながら苦しみました。

 そんな時「ここで進む人あり、ここで倒れる人あり」ということで、自分を訓練してきました。ニューヨークに(来て)33年ですからね。

 取材後記:昨年は米CBSテレビでゴールデンタイムに放送されている「The World’s Best」 という世界規模のオーディション番組に、レギュラー審査員として出演していた出口さん。何か始めると、さまざまな壁にぶつかっていますが、実は壁が出口さんを強くしているような気がしました。もうひと踏ん張りするには、いかに勇気がいるか。そして、もうひと踏ん張りし続けることが、いかに次につながる原動力になるかについて、考えさせられました。

(文 海原純子)

 出口 最一(でぐち・まこと) 演劇プロデューサー。劇団四季で俳優として活動後、ニューヨークに渡り、サークル・レパートリー劇団に入団。演劇と舞台製作を学び、プロデユーサーに転身。1991年ニューヨークのアスタープレイス劇場で「Blue Man Group Tubes」をプロデュースし、大成功を収め、ドラマデスク賞を受賞。作品はロングランとなる。2015年ニューヨークのSTAGE42で「Trip of Love」が11カ月のロングラン公演。ブロードウェイ舞台演出振付協会からジュ―・A・キャラウェイ賞を受賞。19年米CBS番組「the World's Best」に審査員でレギュラー出演。

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