静かに進行する騒音性難聴
日常環境での大音量に注意
難聴の原因の一つに騒音がある。劇場やコンサートなどで、耳が痛くなるような大きな音を聞いたときに発生する急性の音響外傷とは異なり、職場など日常の環境における騒音が原因となる。徐々に聴力が低下するという騒音性難聴について中井耳鼻咽喉科(奈良市)の中井義明医師に聞いた。
◇内耳の障害で聴力低下
外部からの音は外耳、中耳、内耳を通って脳に伝えられる。外耳で音を集め、中耳はその音を増幅し、内耳がそれを脳に伝える。騒音性難聴は内耳の障害が原因で起こる。
「内耳には外有毛細胞と内有毛細胞という二つの細胞があり、中耳にある鼓膜から伝わった音の振動を電気的信号に変えて脳や神経に伝達する役割を果たしています。この細胞は85デシベル以上の大きな音を絶えず聞いていると壊れると言われています」と中井医師。
デシベルは音の大きさを表す単位で、人の大声、パチンコ店内やゲームセンター店内、激しい交通騒音、重機などを使う工事現場などの音が85デシベルに相当する。
◇予防が重要
騒音性難聴の初期症状は聞こえにくさに耳鳴りが伴う。また、人の話し声をヘルツ(周波数)で表すと、500~2000ヘルツくらいになるが、4000ヘルツ付近の高音域が聞こえにくくなる。携帯電話の呼び出し音や目覚まし時計のアラーム音などがこの高音域だ。
厚生労働省の「騒音障害防止のためのガイドライン」では、音の大きさが85デシベル以上の環境で常時50人以上の労働者を使用する作業所に、半年に1度の定期健康診断での聴力検査を義務付けている。85デシベル未満の騒音でも、その環境が長期に及ぶと難聴になる危険性はあるので、定期的な聴力検査、環境の改善、耳栓の使用などの対応策が求められる。
症状はゆっくりと進行するため、健康診断などで難聴であることを指摘されるまで気付かないケースが多いという。「早期に気付いて治療を受ければ、ビタミン剤やステロイド剤(副腎皮質ホルモン)の内服で症状はある程度回復します」と中井医師。
だが、内耳の細胞は壊れると再生しないため、予防が何よりも重要だ。「ヘッドホンやイヤホンなどで日常的に大音量で音楽を聞くことも騒音性難聴の原因になる」と、中井医師は注意を促している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2017/04/08 11:23)