治療・予防

循環器系疾患、冬場の急変に注意
~受診、治療の早期再開必要~ ―コロナで手術数減ったまま―

 心筋梗塞や大動脈瘤(りゅう)剝離など、ひとたび起きれば生命の危機に陥ることが少なくないのが、心臓を中心とした循環器系の疾患だ。具体的な自覚症状が出てからはもちろんだが、症状が出なくても検査などで異常が見つかれば、可能な限り早期に専門医の診療を受けることが求められる。しかし、新型コロナ感染症患者の受け入れのために、循環器系疾患の患者の受診や手術を延期・縮小した医療機関は少なくない。感染拡大が一段落した現在、専門医らは「できるだけ早期に受診し、治療を再開してほしい」と求めている。

渡邊剛医師

渡邊剛医師

 ◇「東京には行かないで」と通院中止

 新型コロナの流行が始まってからほぼ1年半。「うちの病院でも、手術の延期や受診間隔が長くなるケースが相次ぎました。首都圏以外の患者さんの中には、『(流行が激しい)東京に行かないで』と家族に止められて、来院できなかった人までいました」と言うのは、元金沢大学教授(心臓外科)で都内の循環器専門病院総長を務める渡邊剛医師。患者が抱くコロナへの恐怖心の大きさを証言した。

 実際、コロナ以前には70%を占めていた関東圏以外の患者数は減少したままだ。現在も、関東圏とそれ以外はほぼ同数という。「コロナ前の2019年度の手術数は540件だった。20年度以降は、500件余に減少した。手術後の経過観察などの受診も減ってしまい、一部の患者さんにはオンライン診療で対応した」と渡邊医師は振り返る。

 手術が先延ばしになったケースでは「(心臓の)弁の形成だけでいい手術のはずが、延期したことで病状が進行し、追加で不整脈への術式まで必要となったこともあった。当然、手術の難易度は上がり、必要な時間や患者側の負担も増えました」と言う。

支援ロボットを使って手術する渡邊医師(ニューハート・ワタナベ国際病院提供)

支援ロボットを使って手術する渡邊医師(ニューハート・ワタナベ国際病院提供)

 ◇米国で「死亡率10%増」の報告も

 コロナへの対応で、緊急以外の心臓血管外科部門の手術を停止した米国では「患者の死亡率がコロナ前より10%増加した」との報告もあった。渡邊医師は「日本でも、治療の中断や手術の繰り延べで、病状が進行した患者が少なくない。可能な限り早めに手術を受け、治療を再開してほしい」と呼び掛けている。

 渡邊医師がこのように呼び掛ける背景には「循環器の病気は、おとなしくしていると症状が出にくく、患者が『治った』『良くなった』と誤解してしまうことが少なくない」という特徴があるからだ。自覚症状が出ないだけで、病状は進行してしまい、温度差の大きい冬場に発作という形で、急変してしまうことが少なくない。

 「手術を予定していた患者はもちろん、新型コロナの流行期間に定期的な受診をやめてしまった患者もこのリスクはある」と渡邊医師は警告する。「循環器の急変が起きやすくなる冬になるまでに、適切な診療を受けておいてもらいたい」と話している。(喜多壮太郎)

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