子どもの脳が萎縮する場合も
~マルトリートメントの影響(福井大学子どものこころの発達研究センター 友田明美教授)~
子どもに対して、「他の子と比べて叱る」「面前で激しい夫婦げんかを見聞きさせる」「長時間スマホを見せておく」といった行為をしたことはないだろうか。これらは「マルトリートメント」と呼ばれ、子どもの脳の健全な発達を阻む可能性がある。福井大学子どものこころの発達研究センター(福井県永平寺町)の友田明美教授に聞いた。
健全な脳の発達に悪影響も
▽脳が萎縮や変形
マルトリートメントは「不適切な養育」の意味で、一般的に想像する暴行や性的虐待、育児放棄のようなケースだけでない。友田教授は「子どもへの避けたい関わり方」と説明する。「虐待や不適切な子育てと言うと、親は心を閉ざします。一方でそうした行為は、子育て困難家庭からのSOSでもあります」と注意を喚起する。
友田教授は、米ハーバード大学と共同で脳のMRI(磁気共鳴画像法)検査でマルトリートメントが脳に及ぼす影響を調べた。例えば、体罰が続くと理性をつかさどる前頭前野の一部が萎縮する。暴言には聴覚野の肥大や言葉の理解力などへの悪影響が見られ、親同士の激しいけんかを頻繁に見聞きすると視覚野の萎縮で視覚的な記憶力などへの影響が懸念される。
また、多くの子どもに親との心理的な結び付きを築けない「愛着障害」が見られた。問題行動の繰り返しや、感情の不安定化などの症状が特徴で、脳では神経伝達物質のドーパミンが出にくくなることも分かった。
「意欲が湧きにくくなったり、褒められても達成感を感じにくくなったりするため、成長後もうつ病などになりやすく、健全な人間関係を結べないといった問題が表れます」
▽「褒め育て」が重要
両親の離婚後に母親から虐待を受けた12歳男児のケースでは、父親が引き取った当初は問題行動が目立ったという。子どもへの心理療法やケアとともに、父親を褒め、ねぎらうと、父親も「子どものころに親から褒められたことがなかった」と涙を流した。
父子の関係が良好になるにつれ、3カ月後には男児の問題行動がなくなり、薬も不要に。7カ月後には脳のドーパミン分泌が正常化した。「子どもだけでなく、親にも『褒め育て』が必要。早期に適切なケアや治療を受ければ、脳のダメージの回復が期待できます」と友田教授は話す。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2022/02/28 05:00)
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