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舌小帯短縮症、正しい知識で早期治療
~哺乳に支障、切開手術で改善~

 ◇親の声は

 子どもの様子や振る舞いが他の子と違えば、親は「自分の子育てが間違っているのではないか」と不安に感じ、心配する。違いの原因に病名が付き、短時間の手術で治る可能性が高いと言われたら、治してあげたいと思うだろう。

 7歳で手術を受けた男児は出生時からハート形の舌で、親は「かわいいな」と思っていたそうだ。哺乳瓶で授乳していたため乳児期に気付かず、幼稚園に通う頃から食事の時に頻繁にえずいたり固い物を飲み込んだりできない様子が見られ、母親がインターネットで調べて伊藤医師の発信にたどり着いた。今は肉厚のステーキも食べられるまでになったといい、男児の父親は「この病気がよく知られていて早く気付いていれば、もっと簡単な手術で済んだ。苦痛を減らせてあげられたのにと思う」と複雑な表情だ。

 別の5歳男児について、母親は舌足らずな話し方とソフトクリームがなめられなかったことが気になっていた。看護師の彼女は「もしかして」と思い、受診を決意。手術して3カ月ほど経過したある日、できなかった「あかんべー」をしてみせた息子。その様子に「タ行やカ行の発音も徐々によくなってきた」と笑顔で話した。

手術の約1カ月後、インタビューで母親は「生後すぐ、授乳時に乳頭痛があった。口の中を見ると舌の動きが確実に狭かった」と振り返り、「長男も舌小帯短縮症で、遺伝する可能性が高いことも調べていた」と話した

手術の約1カ月後、インタビューで母親は「生後すぐ、授乳時に乳頭痛があった。口の中を見ると舌の動きが確実に狭かった」と振り返り、「長男も舌小帯短縮症で、遺伝する可能性が高いことも調べていた」と話した

 ▽産後ケアの一つになれば

 東京都三鷹市の菅原陽子さんは3児の母で、3人とも舌小帯短縮症で手術を受けた。8年前、長女が生後3カ月で処置されるまで、乳頭痛を抱えながら「なぜ授乳がうまくいかないのか」と、誰にも相談できずに悩み苦しみ、寝不足の中で必死に育児していたことを明かした。

 心が限界に達したとき、見かねた助産師から伊藤医師の病院を教えてもらい、診断結果にただ驚いたという。そして手術から30分後の授乳で味わった思いが忘れられない。「これが赤ちゃんが飲んでくれる感覚なのか。痛くない。やっと母になれた」。涙があふれ出た。

 診察時に伊藤医師から渡された論文で、菅原さんは小児科医が舌小帯を診察することが現在は少ない原因を知り、怒りを覚えたという。自分の経験と論文の内容を分かりやすくまとめ、近所の児童館や市の助産師などに配った。

 「お医者さんが積極的に教えてくれることは期待できません。授乳がうまくいかない場合、原因の一つとして自分から舌小帯短縮症を疑い、説明を求めなくてはなりません」と菅原さん。

長男の哺乳がうまくいかなかった際、偶然病気のことを知って対処できた。「お母さんたちに広く知られる病気になって、相談できる場所、手術してくれる場所がもっと増えてほしい」と語ってくれた

長男の哺乳がうまくいかなかった際、偶然病気のことを知って対処できた。「お母さんたちに広く知られる病気になって、相談できる場所、手術してくれる場所がもっと増えてほしい」と語ってくれた

 実は菅原さん自身も舌小帯短縮症。長女を出産した病院の助産師が気付いた。これまで、コミュニケーションの場でうまく口が動かない理由が分からなかったという。「『授乳が痛くてつらいと感じるのは自分に母性がないからではないか』『赤ちゃんの発達が良くないのではないか』と疑う毎日を手術が救ってくれました」と振り返った上で、「哺乳がうまくいったことによって育まれた子への愛が、自己肯定感にもつながりました。舌小帯短縮症についての方針が転換し、産後ケアの一つにもなると認識されるといいですね」と話してくれた。

 患者の親は「成人後も含め、人生全てに関わる大事な手術だった」「こういう疾患があるということ、切開手術という選択肢があることが、情報として広まってほしい」などのコメントを寄せている。舌小帯短縮症という疾患の認知度が高まれば、授乳という赤ちゃんとの大事な対話の時間に不具合を感じた場合、その問題解決の一つとして、誰もが口の中を確認する行動に出るのが一般的になるはずだ。(柴崎裕加)

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