早産児を社会全体で支えるために
~小さな赤ちゃんと家族が抱える課題を知ろう~
早産児という存在を知っているだろうか。妊娠期間が6~9カ月(37週未満)で生まれた子を言い、出生体重が2500グラムに満たないことが多い。生後すぐに新生児集中治療室(NICU)に入る場合もあり、退院後も家族はさまざまな悩みや不安、心配を抱えながらの育児をしなくてはならない。社会全体で支えるためには何を知り、どうしたらいいか。啓発イベントを訪ねた。
11月17日の世界早産児デーに合わせて開催された啓発イベントで、小さな赤ちゃんのお世話体験をする中学生
◇生まれてすぐ集中治療室に
厚生労働省の人口動態調査によると、1年間の出生数に対する早産児の割合は近年、5.7%前後で推移している。2500グラム未満の低体重で生まれた子は9.4%ほど。新生児20人中1人が早産児、10人中1人が低体重児になる。36週以下の段階だと、体の各器官が成熟し切っていない可能性が高く、低体重・低身長で生まれる確率が上がる。
このような早産児や低体重児が生まれた場合、特別な新生児ケアとしてNICUに入ることも多く、24時間体制で心拍数や血圧、血液中の酸素濃度などのチェックを受ける。呼吸障害や感染症などを発症することもあり、合併症のリスクが高いことも一因だ。
◇医療の現場では
新生児医療の進歩で無事に退院・成長していくようになったものの、課題がなくなったわけではない。慶応義塾大学医学部小児科の有光威志医師は「体重増加不良などの健康問題や、発達がゆっくりであるなど、将来的に何らかの課題を抱える可能性が正期産児より高い。赤ちゃんに何気なく施している検査や処置などがストレスになり、それらの原因になっている可能性がある」と指摘する。そのため、有光医師らは赤ちゃんのストレスと痛みを軽減し、家族が安心して赤ちゃんと関わることができる医療ケアを実践している。
「早く生まれたことはかわいそうではない。それぞれの背景を持って生まれた子たちみんなが、自分らしく生き生きと生きてほしい」と語る有光威志医師
回数を減らす、短時間で行う、優しく触れるなど最低限の治療行為にとどめることで、ストレスや合併症の抑制・軽減、発育や発達の促進といった効果があるという。採血などで生じる痛みもなるべく減らす。「痛みを感じる回数が多いと脳の構造が変化し、将来の発達スコアが下がるという報告もある」(有光医師)。
家族の心のケアとして有効な方法の一つは、家族も治療の一端を担うことだ。有光医師は「赤ちゃんとの時間を長く過ごせるようにしている。(直接胸に抱く)カンガルーケアもその一つ」と優しく語る。その中でも特に、赤ちゃんにたくさん話し掛けてあげることがとても大切だ。有光医師は「家族の声が聞こえると、赤ちゃんの脳内ネットワークのうち、愛着や感情をつかさどる箇所が活性化する」と説明。家族とのコミュニケーションは、親の不安を和らげ、赤ちゃんの家族に対する「大好き」「安心する」という気持ちを育む。
◇緊迫感の中で育児
「『この子の命を守らなくちゃいけない』と自分に言い聞かせながらの育児は緊迫していた。光が見えない暗闇の中で、ずっと不安を感じる日々だった」と心の内を語ったのは、854グラムの長男を予定日より約2カ月早く出産したゴーウィンかおりさん。
赤ちゃんの哺乳力は弱く、NICUにいる時から哺乳瓶で飲む練習を重ねた。退院後も、弱い力でも飲める仕組みの哺乳瓶の飲み口を探したり、一度にたくさん飲めないため毎日数時間おきに少量ずつ授乳したりと、細かい配慮は続いた。
「他の子と比べればゆっくりだけど、この子のペースでできることが増えたとき、とてもうれしかった」と話すゴーウィンかおりさん
産休明けに備えて保育所を探したが、「経験が無い」などの理由で受け入れに消極的な園もあった。その後、訪問保育サービスの存在を知り、利用を始めたが、「行政はもっと情報を積極的に教えてほしいと感じた」。
周囲の人から掛けられた励ましの言葉は、素直に受け止める余裕がなかったという。「『頑張って!』と言われても、これ以上どう頑張ればいいのか。もう頑張れないと思ってしまった」とゴーウィンさん。「『かわいいね』と他の(普通の)子と同じように言葉を掛けてもらった時はとてもうれしかった」と、かみしめるように話した。
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(2023/12/26 05:00)