話題

早産児を社会全体で支えるために
~小さな赤ちゃんと家族が抱える課題を知ろう~

 ◇さまざまな支援

 2018年に静岡県が全国で始めて配布したリトルベビーハンドブックは、身長、体重とも小さな数値から始まっており、低身長・低体重の子の発育について分かりやすく記録できる。従来の母子健康手帳だと、保護者は数値のほか月齢ごとの発達の様子などについて「書き込めない」と感じ、心理的負担になっていた。その問題を克服した形で、23年10月現在で40道府県と6市が運用している。

 22年には、国の「低出生体重児の発育曲線」が見直され、医療機関や保健所などの検診時に、保護者が活用しやすい体裁になった。こども家庭庁のサイト内で公開されている。

 成長過程において、小児慢性特定疾病児童等自立支援事業で各都道府県などが、慢性的な疾病を抱える児童や家族のサポート体制を整えている。自宅訪問して相談に乗ったり、自立支援員が学校などとの間を仲介し適切な情報を提供したりするといった内容だが、「当事者にしっかり届いているとは言い難い」と有光医師は表情を曇らせる。

 そんな中、力を発揮するのが患者家族会などピアサポートだ。同じ境遇で似た悩みや不安を抱えている当事者同士が、それらの課題だけでなく喜びや感動も共有し、寄り添う。お互いが支え合うことで、暗闇に光が差すことがあるという。有光医師も「日本NICU家族会機構(JOIN)」の活動に携わり、全国の家族会の情報や当事者の声などを届けている。

橋本洋子さんは「不安は形を変えた愛情そのもの。不安や気持ちの揺れはあっていい」と話した

橋本洋子さんは「不安は形を変えた愛情そのもの。不安や気持ちの揺れはあっていい」と話した

 ◇私たちができることは

 啓発イベントでは、埼玉県の浦和実業学園中学校の生徒により、NICUでの小さい赤ちゃんのおむつ交換体験が行われた。保育器に手を入れ、看護師に手伝ってもらいながら、手のひらより小さいおむつを人形に履かせる。2年生の木村美咲さんは「思っていたよりずっと小さくて驚いた。誰もが安定して生まれてくるわけではないことが分かった」と話した。

 ベビー用品のピジョン(東京都中央区)によるアンケートでは、早産児家族の9割以上が「不安や悩みがある」と答えた。一方、一般の人の7割弱が「早産児家族がどう悩んでいるか、どのような声掛けをすればいいか分からず戸惑う」と答えた。一般社団法人山王教育研究所の臨床心理士の橋本洋子さんは「子育て支援センターなどのスタッフは温かく迎えることが大事。研修などが必要だろう」と話す。

 学校では教師はもちろん、保護者、そして子ども同士の理解が大切になってくる。「心配なことを相談できる場所が求められている」と橋本さん。「早産児・低体重児の家族に限ったことではないと思うが、子どもたちがここまで育ったこと、その子どもたちを育ててきた家族の日々に想像を巡らせ、リスペクトしてほしい。そこからおのずと、温かいまなざしや目の前の親子を大切に思う気持ちが生まれ、その親子を支えることになると思う」と語り掛けた。(柴崎裕加)

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