インタビュー

あなたもがんをみとる=死に直面する厳しさ

 

◇告知のショック

聖路加国際病院(東京都中央区)オンコロジー―センターでがん患者のケアに携わっているがん専門看護師の大畑美里さんは「遠隔転移の告知はほとんどの場合、年齢にかかわらず最初のがん発見の告知以上のショックを受けます。遠隔転移を告げられた次の診察で『前回、何をおっしゃったのですか』と医師に改めて問うことも珍しくありません」と言う。

この背景には「遠隔転移したことの事実を受け入れられない」「治癒が困難な状況であることを認識できない」という課題があると感じている、と大畑看護師は教えてくれた。

このようにがんの遠隔転移が確認されたことによる患者や家族に与えるショックは大きい。このため医師から、診断の結果を伝える際にも大畑さんのような専門看護師が同席を求められることも多いという。

「大きなショックを受ければ、その後について考えるのは難しい。遠隔転移について説明するためのリーフレットなどもあるが、手に取る余裕のある人は少ないため、活用し切れていないのが実情です」

背景には難しい事情がある。遠隔転移が発見されるがんでも、よほど進行した段階でない限り、日常生活に大きな支障や自覚症状をすぐに感じないこともある。このため多くの患者やその家族は、完治への希望を持ち続けることが少なくない。

◇延命のための治療

「遠隔転移の宣告後も、延命のため抗がん剤治療を続けるケースが多い。その治療はあくまで延命のためものです。でも、患者や家族が意識を切り替えられないことも珍しくありません」。「治りたい」と念じながら抗がん剤治療を続けた末に使える抗がん剤がなくなり、「できる治療はなくなりました。後は緩和ケアを受けながら残された時間を有効に使ってください」と医師に告げられて初めて、死を実感する患者もいるという。

遠隔転移後に時間を有効に活用するためには、患者や家族が厳しい現実を受け入れるしかない。大畑看護師は「医療の側からも、厳しい現実に対する共感を持ちながら手を差し伸べ、じっくりと話し合う中で伝えていくしかない」と話す。このため患者と接する時間が限られる医師だけでなく、看護師を中心にしたほかの医療職が日常のきめ細かいケアを重ねて、患者や家族との間に信頼関係を築く必要がある。

用語解説「遠隔転移」

発生したがん腫瘍から血液やリンパ液を伝ってがん細胞がほかの臓器や骨などに移り、そこで新たな腫瘍をつくり出す段階。発見された転移先だけでなく、確認できない程度の小規模転移が全身に広がり、手術などで腫瘍部分を切除しても再発を繰り返す。発見が遅れた場合や手術後一定期間後に再発した場合に多く、完治は難しい(期待できず)とされている。

転移後も抗がん剤などの化学療法でがんの増殖を一時的に抑えることはできるが、一定期間でがん細胞は抗がん剤に対して耐性を獲得し、増殖が再開する。

用語解説「支持療法」

がんによる痛みや治療時に生じる副作用を和らげるための治療。かつては治療手段がなくなった末期がん患者が対象とされたが、現在では治療開始直後から必要に応じて行うのが一般的だ。また精神的な不安にも対応する。

 実際には医療用麻薬を含める痛み止め、吐き気や倦怠感を抑える薬物の投与が中心になっている。(了)


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