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風邪と思い油断しないで
高齢者死亡の上位占める肺炎

 寒さが厳しくなりインフルエンザの陰に隠れてしまうことも多いが、高齢者や持病のある人を中心に大きな問題になっているのが肺炎だ。特に高齢者の肺炎は、日本人の死因の上位を占めている。専門医は「持病のない成人でも、『風邪だ』と思って放置していると、予想外に入院しなければならないこともある」と注意を喚起している。

肺炎と風邪の感染部位

肺炎と風邪の感染部位

 ◇激しいせきとうみのようなたん

 「ウイルス感染による上気道炎(いわゆる風邪)は基本的に数日で治るが、細菌や非定型病原体による肺炎は1週間以上症状が続くことも珍しくない。発熱や激しいせきが長く続く場合は、一度は肺炎を疑ってほしい」。肺炎などの呼吸器感染症に詳しい東京慈恵会医科大学付属病院の沼田尊功医師(呼吸器内科)は、こう呼び掛ける。普通の風邪だと思って市販薬(OTC)で症状を和らげていても、なかなか良くならない。そこで受診した働き盛りの男性がX線検査の結果で肺炎と診断され、「まさか自分が肺炎に」と驚くこともある、という。

 肺炎の主な症状は 発熱や激しいせき、うみのような色をしたたんであり、一般の人には風邪やインフルエンザとの区別は難しいかもしれない。重症化すれば胸の痛みや呼吸困難、脱水症状を引き起こすこともある。現在では抗菌薬の投与で数日後には熱が下がり始め、たんの色が薄くなるなど病状が改善され、1週間前後で治癒するといわれている。

診断は胸部の聴診から始まる

診断は胸部の聴診から始まる

 ◇X線画像判断は医師の技量

 ただし、抗菌薬は病原微生物によって効果に違いが出てくる。耐性菌という問題も考えれば、多数ある抗菌薬の中から病原微生物に一番効果がある薬を選ぶことが必要になる。そのための検査にはある程度の時間がかかる。

 肺炎の診断は、胸部聴診で呼吸時の雑音を聞き取れるかが基本で、必要なら胸部のX線検査で肺に炎症を示す影が出ているか確認する。一般クリニックでもX線撮影装置は普及しているので、肺炎の疑いがある場合はX線検査を受けることができる。ただ、現在では、血液中の炎症マーカーの値や血中の酸素飽和度を参考に、X線検査を実施するかの判断材料にすることも多い。

 「肺炎の病状次第で、X線画像の陰影は広範囲であったり、わずかであったりする。高齢者であれば、結核などの既往症の跡が残っていることもある。画像から必要な情報を読み取る、すなわち、読影には医師の技量に左右される面がある」

 ◇多い大規模病院への紹介

 複数の検査を実施しやすいからか、肺炎の疑いや診断が出た段階で、入院施設のある比較的大きな医療機関に患者を紹介することが多いという。このため、「入院が必要な病状なのか」と心配する患者も少なくない。沼田医師は「多くは自宅で安静にしてもらいながら抗菌薬を服用してもらう。確定診断のための検査方法だけでなく、抗菌薬の選択や入院するかどうかの判断に熟知していることから 、大きな医療機関に肺炎の患者を紹介するのだろう」と推測する。

 「体調にもよるが、服薬を始めてから3日過ぎても症状が軽くなったと感じられなかった場合は、抗菌薬を選び直す必要があるかもしれないので再受診を考えてほしい」と沼田医師は勧める。

東京慈恵会医科大学付属病院の沼田尊功医師

東京慈恵会医科大学付属病院の沼田尊功医師

 ◇食欲低下などは危険サイン

 明確な呼吸困難や輸液などによる栄養補給が必要なほど衰弱していない限り、在宅治療になることも知っておきたい。「『肺炎イコール入院』と思い込んでいる人も多いが、よほど症状が悪化していない限り在宅治療でも心配はない。受診のタイミングも同様で、入院が必要な状態でなければ救急受診が絶対必要とは言えない。しかし、土日や連休を挟んでしまうと、治療開始が数日遅れてしまうので、この場合は休日診療をしている医療機関を受診した方がよい」と話す。

 「特にインフルエンザに感染すると気道の免疫機能が低下してしまうので、肺炎を併発しやすくなる。インフルエンザは治療後1~2日で熱が下がることが多い。それなのに発熱や膿性たんが1週間以上続く場合は、肺炎の合併を疑ってほしい」

 高齢者の場合は、高熱や激しいせきなどといった明確な症状がないまま病状が進行することが少なくない。衰弱した患者自身は苦しさを訴えられないので、周囲の対応が遅れてしまう危険がある。沼田医師は、①食欲が低下していないか②呼吸が荒くなっていないか③ぐったりしたり、ぼんやりしたりしていないか―の3点に注意するようアドバイスする。特に、②や③の兆候があれば呼吸不全や意識障害を起こしている危険もあるので、救急車を呼んだり、救急外来を受診したりする必要がある。「いつもと様子が違うかどうか」に気付くことが大事だ。(喜多壮太郎・鈴木豊)


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