新米医師こーたの駆け出しクリニック

あなたも梅毒に感染しているかも? 専攻医・渡邉 昂汰

 性感染症である梅毒の患者数が年々増加していることは、皆さんご存じでしょうか。2023年の東京都梅毒報告者数は、ここ数年で最も多い3701件でした。「自分は不特定の人と関係を持っていないし、大丈夫だろう」と思っていらっしゃる方も多いと思いますが、パートナーや配偶者が感染していたら、知らないうちに当事者になっているかもしれません。今回のコラムでは梅毒をテーマに、疾患の特徴から最新の治療まで簡潔に説明します。性感染症が身近でない人にこそ梅毒について知っていただき、早期発見および治療につなげてほしいと思います。

梅毒感染が疑われる場合はすぐに受診を。放置すると重大な疾患に至る恐れがあります

 ◇症状と診断

 梅毒は、「梅毒トレポネーマ」という細菌によって起こる感染症です。粘膜や皮膚の直接接触で感染するため、主な感染経路は性行為となります。アナルセックスやオーラルセックスはもちろん、キスでも感染するリスクがあります。

 性行為により感染が成立した後、10~90日間の潜伏期を経て、感染部位の茶褐色の盛り上がった皮疹、陰部潰瘍、脚の付け根の腫脹(しゅちょう=炎症などによる腫れ)などが出現します。一般的に痛みはなく、4~6週間で自然に良くなります。

 その後、さらに4~10週間の潜伏期間を経て、手のひら、体幹などに多種多様な皮疹が出現します。また、この頃には、血流に乗って梅毒トレポネーマが全身に広がっているため、発熱、咽頭痛頭痛などの症状が出たり、腎臓や目、耳などに異常が起きたりすることもあります。さらに進行すると、記憶障害や進行性まひなどの神経障害が生じたり、心筋梗塞や大動脈瘤(りゅう)破裂などの致死的な心血管疾患が起きたりすることがあります。このように、人によって症状の出方がさまざまであるため、梅毒は「模倣の名人」とも呼ばれ、他の疾患と見分けがつかないこともしばしばです。加えて、感染リスクのある性行為をしたと自己申告できる方は多くないことも、早期発見を難しくしています。

 一方、梅毒を疑うことができれば、診断は比較的簡単です。採血による抗体検査で診断しますが、この検査は病院やクリニックはもちろん、地域によっては保健所や各自治体の検査室でも受けられます。

 ◇1回完結の注射薬

 梅毒の治療には抗菌薬を使います。これまでは、アモキシシリンという飲み薬を1日3回、4週間にわたって毎日内服する必要がありました。飲み忘れたり、途中で内服をやめてしまったりして、治療失敗に至る例が後を絶ちませんでした。

 そんな中、新しい治療薬が日本にも入ってきました。世界中で使われている薬で、2021年9月に日本でも承認され、「ステルイズ」と名付けられました。ステルイズ はお尻の筋肉に注射し、早期梅毒であれば1回で治療が完了します。世界では70年以上使用されていて、安全性も担保されています。長期内服の煩わしさから解放されるため、内服中断による治療失敗の減少が見込めます。この薬は梅毒制圧のキードラッグになると期待されており、実際にステルイズで治療する患者さんも年々増えています。

 このように、梅毒血液検査による診断、注射1回での治療が可能であり、診断・治療が比較的スピーディーに完結する疾患です。患者さんがご自身の行動歴から梅毒を疑い、検査に来てくださるかどうかが制圧の大きなポイントです。

 早期発見は重症化を防ぐためにも重要です。リスク行為の心当たりがある方、性的接触後に何かしらの症状が出現した方は、近くの保健所もしくはクリニックでぜひ相談してください。当事者意識を持って行動することが、ご自身と周りの人の健康、ひいては社会を守ることにつながります。(了)

渡邉昂汰氏


 渡邉 昂汰(わたなべ・こーた) 内科専攻医および名古屋市立大学公衆衛生教室研究員。「健康な人がより健康に」をモットーにさまざまな活動をしているが、当の本人は雨の日の頭痛に悩まされている。



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