一流に学ぶ 天皇陛下の執刀医―天野篤氏
(第12回) 不安契機、善行心掛ける =「プラスの連鎖」と前向きに
占師のアドバイスに従ってまず、忙しさを理由に断っていた原稿執筆や講演、取材の依頼をできるだけ受けるようにした。日々の生活では、電車でお年寄りに席を譲るようにもなった。手術室の外にいても、人の役に立とうという心掛けである。
「シルバーシートが目的通りに使われていなかったのが気になっていたので、自分が『座席確保係』になって、本当に必要な人が来たら譲ってあげるようにしました。お年寄りが乗ってきたら、結構離れた場所でも座席に本を置いて迎えに行って、『どうぞ』と座らせました」。遠慮してなかなか座ってくれないときは、「うちの母親も苦労しているのを見ていましたから」と手を引っ張ってくるのだという。
「身近な人に対して良いことをすると、その人が喜んでくれて自分もうれしくなる。その人も他の人に親切にしようと思うかもしれない。小さな喜びがプラスの連鎖を生んで、良い方向に向かって行くのだと思います」
人に親切にするというシンプルな心掛けが、人生を好転させるのかもしれない。「そんな心掛けを続けていたら、不思議なことに、大学教授にならないかという話が来ました」。後進の教育に関心が向いていた頃で、天野氏はこの話を素直に喜んだ。
「占師の言うことを信じるなんて、と思われるかもしれませんが、僕にとっては重要な人生の転機。何かに悩んで、何をしていいのか分からないときは、どんなに小さくてもいいから、周囲の人が喜んでくれるようなことをする。立ち止まらずに行動すれば、別の道が開けてくると思います」
(ジャーナリスト・中山あゆみ)
←〔第11回へ戻る〕オフポンプ手術で先陣=「使命感」原動力に
- 1
- 2
(2017/02/06 11:24)