女性アスリート健康支援委員会 女子選手のヘルスケアを考える

月経で体調つかんでコンディショニングを
つらい症状にはピルが選択肢、周期調節も可能に

 女性アスリートの指導者、特に男性の場合は、女性特有の月経の悩みを十分に理解することが必要だ。女子選手が日頃からコンディションを整え、試合でよいパフォーマンスを発揮できるよう、正確な知識に基づいてサポートすることは、生涯の健康にもつながる。

 日本産科婦人科学会と日本スポーツ協会などでつくる「女性アスリート健康支援委員会」が2月1日、東京都内で開いた「Female Athlete Conference 2020~女子選手のヘルスケアを考える~」で、最初に登壇した国立スポーツ科学センターの鈴木なつ未研究員(スポーツ医学)が取り上げたのは「月経周期とコンディショニング」の問題。トップ選手の間で広まってきている低用量ピルを用いた月経調節法も紹介された。

 養護教諭やスポーツ指導者らを集めて開かれた女子選手のヘルスケアを考える集会
 ◇まず無月経の予防が大切

 まず、月経に関する基礎知識を今回講演した講師陣の説明を基に紹介していこう。

 医学的に、月経周期(月経初日から次回月経開始日前日までを指す)が「正常」とされるのは25~38日。もっと頻繁に来たり、逆に来ない期間が長かったりするのが「月経不順」だ。3カ月以上止まったままだと「無月経」に分類される。

 鈴木研究員によると、一般女性の平均初経年齢は12・3歳。これに対し、国立スポーツ科学センターが2014年に報告した調査で、トップ選手ら663人の平均は12・9歳で、体操や新体操の選手は15歳を超えていた。15歳になっても初めての月経が来ない場合は現在、「遅発月経」と呼ばれ、無月経になった場合と同様に、産婦人科受診が望ましいとされる。

 アスリートの場合、無月経は、運動量に食事量が追い付かない「体の利用可能エネルギー不足」が原因の場合が多い。月経が来ないと女性ホルモンの分泌も抑制されるため、骨の形成まで妨げられてしまう。女性が最大骨量を獲得するのは20歳になる前なので、成長期の十代の選手にとっては、成人して以降の骨折などの将来リスクも高めかねない問題だ。

 鈴木研究員は「初経が来ると、年間の骨量増加量が非常に高くなるので、やはり初経がきちんと来ること、正常な月経を取り返すことが非常に重要になる」と無月経の予防の必要性を説いた。

 ◇日常生活に支障なら我慢しないで

 月経が来ている場合も、女性ホルモンの変動の影響によって、月経中や月経前には、さまざまな体の変化が表れる。下腹部などの痛みをはじめとするさまざまな不快な症状、いわゆる月経随伴症状が日常生活に支障を来すほどつらい場合にも、やはり産婦人科を受診した方がよい。

 

 講演する中村寛江医師
 東大医学部付属病院・女性アスリート外来の中村寛江医師は「本人も周囲も『大したことではない』『我慢しないと』と思ってしまう傾向があるが、症状には個人差がある」と説明。「『部活なんてとてもできない』という中高生もいた。会社をやめたり、『子宮を取ってほしい』とまで言う女性もいた」と、診療現場の一端を明かした。

 日常生活に支障を来すほどのつらい月経の痛みは「月経困難症」という病気に分類される。「プロスタグランジンという『痛み物質』が子宮内膜から分泌されるのが原因。年齢と共にだんだんと悪化する月経困難症は、子宮内膜症などの病気が隠れている可能性がある」という。

 他にも、月経前3~10日の間にイライラや下腹部痛など心身にさまざまな症状が出る「月経前症候群(PMS)」や、昼間にも夜用ナプキンを1~2時間ごとに交換しなくてはならないほど経血量が多い「過多月経」に悩む女性も珍しくない。

 中村医師は「こうした月経随伴症状は適切に治療できれば改善できる。スポーツのパフォーマンスの維持向上のためにも大切」と述べ、学校の養護教諭やスポーツ指導者らの来場者に対し、「ぜひ産婦人科医との架け橋になってほしい」と訴えた。

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