「医」の最前線 行動する法医学者の記録簿
リゾートで作業着、それもアイデンティティー
~法医学者ら、沖縄南部で戦没者の遺骨を掘る~ 【第4回】
◇遺族も高齢化、DNA鑑定どうすれば
焦点になったのは、やはり遺骨のDNA鑑定だった。厚労省から鑑定を委託されている大阪医科薬科大の技術員ら2人は、DNAはある程度の長さがないと識別できないことや、日光に当たって壊れることがあり、シベリアなどの寒冷地に比べて南方は厳しいことを説明。「何回も試行錯誤して、責任をもって報告するようにしているが、労力も時間もかなりかかる。どこもマンパワーが足りない」と実情を述べた。
集会施設で行われた検討会。近藤稔和理事長(左)の司会で、遺骨収集の課題や活動の継続性などについて意見が交わされた=2023年8月13日、那覇市
具志堅さんは「高齢化で遺族もどんどん少なくなっていく。突き合わせる片方の人がいなければ、遺骨が帰れる確率は落ちるだけです。鑑定の現場でもっと人員が欲しいという課題は、どうすれば解決するんでしょう」と割り切れない心情を吐露した。
従来の委託12大学に加えて、厚労省が体制強化を目的に新たに戦没者遺骨鑑定センター分室(DNA分析施設)を設置したことについては、「国が本格的に取り組むと思って陣容を聞いたら3人。その人数でいいのか。どれくらいの処理能力があるのか」と疑問視した。
そして、「家族の元には帰れなくても、ふるさとに帰ることはできないだろうか。安定同位体検査で出身地を特定し、ふるさとに戻してあげることも大事なことだと思っています」と付け加えた。
一方で、法歯学について、「(ガマの中に)何人いたのか、(年齢や性別も含め)歯の検証で分かっていく。これは目からうろこ。歯が持つ情報がさらに重要度を増していくと思う」と感心した様子だった。
これまで回を重ね、参加者の広がりも見せてきた法医病理学会の遺骨収集だが、取り組みの手法を少し変えた方がいいという意見も出た。
池松教授は「歯科の先生に土を掘ってもらうより、見つかった歯を集めておいて鑑定してもらう方が効率的。個人が活躍できるシステムにした方がいい」と提案。近藤理事長も賛同し、「学会の収集は年3回にして、同じメンバーが来るのではなく、現地は1回。上がってきた骨を鑑別するのはまた別でもいい。僕らも考える時期に来ている」と語った。
長崎大医学部長の池松和哉教授(左)。回を重ねてきた「日本法医病理学会」の遺骨収集活動について、効率化を提案した=2023年8月13日、那覇市
初回から現地に入った理事の木下博之・香川大医学部教授も、朝鮮戦争で死亡した米軍兵士が日本での身元識別を経て本国に送られる状況を描いた「骨を読む」(埴原和郎)という本を引用し、「残念ながら沖縄戦の日本では、そういう対応が十分でなかった」と指摘。学会の活動継続を前提に、「やり方を考えていく必要がある」と述べた。
◇土砂採取で収集場所なくなる懸念も
最後に理事長が「決して対価を求めるものではない。暑い時期に作業着を着て、リゾート地の沖縄で(遺骨収集を)やるのもわれわれのアイデンティティーでありたい」と総括した。
検討会では、具志堅さんから米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐり、国が軟弱地盤を埋め立てるための土砂を県南部から調達する計画が進行していると、気がかりな説明があった。
「ジャングルで遺骨を見つけ、翌週現地に行ったら伐採されていた。業者に聞いたら採石場になると。場所がなくなったら遺骨収集のしようもない。だからふるさと納税で全国に呼び掛け、緑地帯を買い取ってくれと県に陳情している」
具志堅さんの言葉は、戦時中の大きな犠牲と今もなお米軍基地の負担を強いられる沖縄県民の悲痛な叫びにも聞こえた。(時事通信解説委員・宮坂一平)
(2023/09/01 05:00)
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