「医」の最前線 行動する法医学者の記録簿

なぜ、どうやって法医学者になったのか
~ユニークなキャリア披露 学生のためのセミナー~ 【第8回(下)】

 将来の人材確保を目的に、日本法医学会(神田芳郎理事長)が横浜市立大学医学部で初開催した「学生のための法医学セミナー」。法医学の社会的ニーズをテーマにした第1部のセッションに続き、第2部はキャリアパスを取り上げた。

 聴講対象の学生約70人を医学科とそれ以外の2グループに分けて実施。このうち、医学科学生対象の会場では、ユニークな経歴を持つ5人の教授らが登壇した。

 ◇法医学の実情、地域や国で大きな違い

 臼元洋介・九州大学教授

「学生のための法医学セミナー」で講演する臼元洋介・九州大学教授=2024年8月24日、横浜市

「学生のための法医学セミナー」で講演する臼元洋介・九州大学教授=2024年8月24日、横浜市

 大学は福岡の九州大学、臨床研修は東京の国立病院機構災害医療センター。鹿児島出身なので、東京に出たいと思ったからだ。そこに2年いて、大学院は福岡に戻り、博士号を取得後に九州大学で勤務し、次いで横浜市立大学で勤務した。横浜での8年間のうち1年間はカナダのトロントに滞在。そして2023年2月に九州大に戻った。

 きょう話すのは「地域による法医実務の違い」だが、私が経験しているのは九州大と横浜市立大なので、主にこの二つを比較する。

 法医学教室の仕事の多くは実務が占め、大半は解剖だ。他に児童相談所の関係、学生や警察官への講義、研究などがあるが、その割合は法医学教室によって違う。

 福岡県の人口は約500万人。23年の司法解剖358、調査法解剖15で合わせて373。県全体の解剖数は(年間で)大体400前後となっている。

 県内の医学部は四つ。福岡市に九州大と福岡大、久留米市に久留米大、北九州市に産業医科大があり、400を4で割ると、大体1大学当たりの解剖数ということになる。

 スライドで18~23年の九州大の解剖数を示したが、22年が「9」と(極端に)少ないのは、22年4月から23年3月まで、執刀医が不在などの理由で解剖が行われていないからだ。

 九州大と福岡大が対象とする人口は約270万人で、それを2で割った130万人がそれぞれの大学の対象人口ということになる。

 一方の神奈川県は全国(都道府県)で2番目に人口が多く、約900万人。23年の司法解剖は596、調査法解剖491、その他が1905となっており、司法と調査法を合わせると1000くらいだ。

 横浜市立大の対象人口は約450万人。これは横浜市のほか、横須賀市や鎌倉市なども入るためだ。対象人口としては、単純計算で九州大の3倍くらいになる。

 解剖数もかなり多く、23年は司法、調査法合わせて185。同じ年、九州大の8カ月間の数字は69なので、倍くらい違う。医師の数は3人。九州大は私1人だ。

 実務に関して言うと、解剖の流れは、警察や海保、検察から依頼があり、法医学教室によっては死後CTを撮って解剖し、中毒や生化学などの検査をして死因を決定、鑑定書を出す。

 九州大も横浜市立大も死後CTはあり、撮影するが、横浜市立大は病院の放射線科の先生がすぐ読影してくれる。九州大はそういうシステムがないので、自分たちで撮り、自分たちで読む。

 少し海外の話をすると、死因究明制度自体が違うので、単純比較はできないが、トロントのあるオンタリオ州は「coroner(検死官)」制度を取っていて、施設の規模も全然違う。解剖台が10台あり、広い開放的な空間で行っていた。

 解剖数は19年度で5600くらい。年々増えている。常勤医師は15人。他にフェローやレジデントもいる。特殊なのは、医師ではないが、解剖を行う「フィジシャンアシスタント」と呼ばれる人たちがいることだ。

 法医学は国内でも地域による違いがあり、国による違いもある。捜査権があるとか無いとかいろいろあり、海外にトライするというのもいいのではないか。


「医」の最前線 行動する法医学者の記録簿