「医」の最前線 地域医療連携の今

連携手帳を積極活用
~患者の病態把握や自己管理に~ 【第3回】糖尿病の医療連携③ 嶋田病院内科部長 赤司朋之医師

 糖尿病の医療連携で情報共有に活用されているものの一つに、日本糖尿病協会が発行している「糖尿病連携手帳」がある。現在、第4版まで改訂されており、検査項目が追加されるなど、改良のたびに新しいアイデアが取り入れられてきた。連携手帳を確認することで、各医療機関のスタッフは患者の病態を把握することができ、患者の自己管理にも役立つものだ。

 ◇自己管理を後押し

 福岡県小郡市の嶋田病院で医療連携に取り組む糖尿病専門医の赤司朋之医師も、この手帳を積極的に活用している。薬剤師やかかりつけ医らと情報共有して、インスリンや経口薬の適切な使用、合併症の早期発見・治療のための定期的な検査などを指導している。

シールを貼ることで患者の意識を高める

 調剤薬局が糖尿病医療連携(連携パス)に参画したのは2012年のことだった。薬局は、薬剤師が患者に薬剤の使用法を解説したり、合併症の有無を確認して指導したりするだけでなく、コミュニケーションの場にもなる。普段の生活の情報収集を行う中で、血圧が高い患者がいれば血圧をチェックしたり、インスリンの効きが悪いという患者がいれば同一部位に注射していることで硬結ができていないか確認したりする。

 「硬結がある場合には、薬剤師が注射部位を変えてみるよう指導しています。また、しばらく顔を見ていない患者さんがいれば薬局の方でも確認を取ってくれています」と赤司医師。

 インスリンを使用していると低血糖を起こしやすくなるため、気にする患者も少なくない。薬局では、どのような時に低血糖が起きているのか、症状が本当に低血糖なのかなどについて薬剤師が聞き取りをして指導する。

 「(経口糖尿病治療薬の)メトホルミンで低血糖が起こることはほとんどないのですが、お薬情報などには副作用として『低血糖』と書いてあり、患者さんによっては非常に気にされます。一方、SU剤(スルホニル尿素薬)などは、実際に低血糖を起こしやすい薬剤であるため、使用する薬の特徴などについては薬局で詳しく説明をしてもらっています」

 このような経口糖尿病薬の特性や、目標HbA1cの値を見える化するため、連携手帳に「自己管理応援シール」(日本糖尿病協会のホームページからダウンロードできる)を医療機関や院外薬局で貼付する取り組みも行っている。連携手帳の表紙に描かれている顔の片方の頬に「低血糖に要注意」または「低血糖を起こす危険性の低い薬剤です」と書かれたシールを薬局で、もう片方には、各医療機関でHbA1cの目標値が表示されたシールを貼付することで患者の意識を高める。

 「HbA1cの目標値は年齢や患者個々の病態によって異なるため、それぞれの患者さんに応じた数値を表示するようにしています。貼付率はまだ100%ではありませんが、患者さんや関係者の間では好評なので、さらに広げていきたいと思っています」

 ◇定期的な尿検査

 糖尿病は合併症を起こすと生活の質が著しく低下するため、重症化予防がとても重要となる。赤司医師は「赴任した最初の1年間で、入院中に神経障害によって下肢や足趾(足の指)を切断した患者さんが3人ほどいて驚きました。以前勤務していた都市部の医療機関では、数年に1人程度だったので、地域によってこんなにも違うのかと思いました」と振り返る。

 合併症の早期発見には、かかりつけ医の存在が欠かせない。家庭環境や家族背景など、患者について一番よく理解しているため変化にも気付きやすいからだ。「早期発見、早期治療が特に重要となるのは糖尿病性腎症です。早期発見には診療所の先生方の協力が必要不可欠です。尿タンパクが出るようになると数年後には人工透析になる可能性が高くなるので、診療所には必要性を説明した上で定期的な尿検査を行うようにお願いしています」

 現在、尿検査、尿中アルブミン検査を定期的に実施している連携先診療所の割合は96%と89%だという。その効果もあり、小郡市の人工透析数は、75歳以上の後期高齢者においては1000人当たり3.9人と、福岡県の平均の7.1人より大幅に低い値で推移している。(18年5月時点)

小郡市は高齢の透析患者が少ない

 「SGLT2阻害剤やGLP1受容体作動薬など新しい薬も出てきたので、早期に発見して早期に介入することで腎障害の進行を抑制して透析を回避することが可能となりました。しかし、全国的に見ると、診療所での尿検査の実施率は非常に低く、早期に発見できていないことが多いのが現状です」

 腎症がある人については血圧のコントロールも重要で、減塩のほかARBなどの降圧剤を使って血圧をコントロールしている。糖尿病で血圧が高いと動脈硬化の進行が加速し、心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクも高まるため、血糖やHbA1cに加え血圧管理も厳格にされている。

 糖尿病はがんの罹患(りかん)率が高くなることも分かっており、定期的ながん検診も行われている。各医療機関との情報共有ツールとして活用されている糖尿病連携手帳の最新版(20年発行)には、2年分の検査項目が記入できるページが追加された。

 「患者さんが連携手帳を提出することで、各医療機関は眼科や歯科への受診および動脈硬化の検査などを、いつ行ったのか確認できます。2年分の記入ができるようになっているので、2年近く検査が行われていなければ、『そろそろ必要だね』ということで検査を勧めることができます。合併症や併存症の検査漏れが少なくなり、がんの発見率も上昇しました」と赤司医師は手応えを感じている。(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)

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