「医」の最前線 地域医療連携の今

要は専従のコーディネートナース
~各職種の連携で患者を支援~ 【第2回】糖尿病の医療連携② 嶋田病院内科部長 赤司朋之医師

 糖尿病食事運動など生活習慣と密接に関与しているため、継続的な経過観察と病状コントロールが必要だ。糖尿病の医療連携で実績を上げている福岡県小郡市の嶋田病院では、専門医やかかりつけ医のほか、看護師をはじめとするメディカルスタッフなど、さまざまな職種が情報共有しながら支援体制を構築している。連携の要は専従のコーディネートナースだ。

 ◇顔の見える連携

 嶋田病院は福岡県南部に位置する人口約5万9000人の小郡市と、近隣の町を合わせた約7万4000人を対象とする診療圏をカバーしている。2005年まで、この診療圏には糖尿病専門医は一人もいなかった。病院の意向もあり、地域支援病院活動の一環として、06年4月に糖尿病専門医である赤司朋之医師が赴任し、翌年、「循環型糖尿病連携パス」を導入した。これは、患者を中心として地域で医療や介護に関わる関係者がそれぞれの役割分担を行い、情報共有しながらチームで患者を支えていくための仕組みだ。

診療所への訪問のほか、リーフレットの作成・配布も担う

診療所への訪問のほか、リーフレットの作成・配布も担う

 嶋田病院では、その中に専属の「コーディネートナース」を配置している。「糖尿病連携パスを導入するに当たり、どのような連携体制を構築しようかと考えていた時に参加した勉強会で、連携がうまくいっている背景にコーディネーターの存在があることを知り、糖尿病にも取り入れてみようと考えました」

 そこで赤司医師が声を掛けたのが、前任の病院で同僚として働いていた2人の看護師だった。通常の連携パスは、治療内容などを記載した診療情報提供書を診療所に郵送することで情報共有を行うことが多いが、嶋田病院ではコーディネートナースが連携先の医療機関を一軒一軒訪問して、医師や看護師に申し送りを行う「顔の見える連携」を行っている。この時、どの検査をどんな理由で行ったのか、インスリンをなぜ変えたのかなど、薬剤の選択についても理由を説明することでクリニックの医師や看護師が患者の病態を、より正確に理解することができる。

 「私が赴任するまで、この地域には専門医が一人もいなかったこともあり、糖尿病患者が増加傾向にある中で治療方針に迷う先生方は少なくありませんでした。そんな背景もあり、連携を始めると非常に歓迎されました」

 現在、連携を結んでいる医療機関は、内科、外科、脳外科を中心に約50施設。立ち上げ当時から連携に参加しているコーディネートナースは、今ではクリニックのスタッフの頼もしい存在となっている。

 ◇診療所訪問やリーフレット作成

 コーディネートナースは基本的に2カ月に1回以上、各診療所を訪問し、急激な血糖の悪化やドロップアウトした患者の有無などを確認する。訪問時は、「パスシート」と呼ばれる専用の用紙に医師や看護師への申し送り事項を詳細に記載して持参する。

季節ごとのパンフレットの一例

季節ごとのパンフレットの一例

 連携当初は、パスシートの用紙サイズにまで気を使ったという。診療所ごとに好みのサイズがあるため、一軒一軒希望するサイズの用紙を聞き取って準備した。

 「スタートした頃はパスシートの返信がないこともありました。そこで、全ての連携パスの再診日が近づいた時に、再診お知らせ用紙を作って診療所を訪問するようにしました。受診日が近いことをお知らせしたり、患者さんの血糖コントロールの確認をしたりして訪問回数も増えましたが、信頼関係を構築していく中で次第に返信も来るようになりました」(コーディネートナース)

 コロナ禍で診療所を訪問する機会が減ったが、患者の投薬変更があった場合などは電話で連絡を取って申し送りを行っている。また、診療所のスタッフが困ったことや相談があれば電話で対応するなど、「顔の見える連携」を図っていたことで、大きな問題はなかったという。

 啓発活動もコーディネートナースの役割の一つだ。2カ月ごとに糖尿病に関するポスターやリーフレットを作成して診療所や眼科、歯科、調剤薬局に持参し、療養指導のワンポイントアドバイスなどの説明を行っている。それらは各施設でポスターとして掲示されたり、患者へ配布されたりする。

 「季節ごとに減塩を意識したパンフレットを作成していますが、いつも好評です。意外と落とし穴なのが、おでんのこんにゃくで、塩分がしみ込んでいるため、一つで塩分は0.9グラムです。ヤクルトには角砂糖三つ分の糖分が含まれていることや、そうめんを2束(100グラム)食べると、ごはん1杯分以上のカロリーを取ったことになるといった身近なことを盛り込んでいます」(赤司医師)(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)


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