「医」の最前線 希少疾患治療の最前線

筋肉の病気疑われたら専門の施設に
~先天性ミオパチー・希少疾患その6~ 小牧宏文 国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカルセンター長

 指定難病数は2021年11月1日現在、338に上る。「パーキンソン病」や「潰瘍性大腸炎」など有名人が患ったことから、一般に広く知られている病名もあるが、一度も聞いたことがないような病名も数多い。全体像が明らかな疾患はごくわずかで、未解決の課題も山積している。「希少疾患」に対する最新の治療方法や課題について紹介する。(取材・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)

小牧宏文 国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカルセンター長


 先天性ミオパチーは、遺伝子の異常が原因で全身の筋肉の力が弱くなる病気だ。運動発達の遅れや呼吸障害、背骨が曲がる側弯症など、さまざまな症状が現れる。多くは小児期に発症するが、産まれてすぐに発症する場合もあれば、成人になってから発症する場合もあり、症状や進行度合いには大きな幅がある。国立精神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカルセンターの小牧宏文センター長は「ごくまれな病気なので、この病気を診たことのない医師が多い。筋力低下の原因が分からない、症状が改善されないなどの場合には、かかりつけ医などから、この患者を多く診ている小児神経科や神経内科を紹介してもらうことが大切」とアドバイスする。

 ◆さまざまな病気の総称

 先天性ミオパチーは、遺伝子変異のために筋肉がうまく形成されなくなり、全身の筋力が低下する病気の総称で、2015年に厚生労働省の指定難病となった。正確な患者数は分かっていないが、海外の報告では、10万人に3.5~5人が発症し、国内の患者数は1000~3000人と推定されている。子どもの筋肉の病気では、筋ジストロフィーの次に多い。

正常筋(左)とネマリンミオパチー(右)【一般社団法人先天性ミオパチーの会提供】

 ネマリンミオパチー、セントラルコア病、ミオチュブラー・ミオパチーなど数多くの病型があり、それぞれ特徴が異なるため、一つの病気として捉えるのは難しい側面もある。

 ◆乳児期・小児期にほとんど発症

 乳幼児期から発達の遅れがある。首の据わり・お据わり・歩き始めが遅く、2歳になっても歩かないなどの症状がある。顔の筋肉が弱いため、表情が乏しく、常に口を開けている、泣いても顔が崩れないなどの特徴がある。肋骨の間にある肋間筋や横隔膜など呼吸に関わる筋力が弱くなると呼吸がうまくできず、重症の場合は、人工呼吸器のサポートが必要になることもある。

 乳児期の症状は目立たず、小児期になってから見つかるケースでは、歩けるようになっても転びやすい、ジャンプができない、走れないなどの運動発達の遅れが現れるほか、背骨が曲がる側弯のため姿勢の維持が難しくなる場合もある。

 ごくまれに、大人になって急に筋力が低下するケースでは、呼吸筋が弱くなり、誤嚥性肺炎を起こして、この病気が見つかる場合もある。


ミオパチーの概要(難病情報センターのホームページの情報から作成)
 患者数          約1,000人
   発病の機構    不明(遺伝子異常によるものが多いとされている)
   治療方法       未確立(対症療法のみ)
   長期の療養    必要(緩徐進行性の経過をたどる)
   診断基準       あり(研究班作成の診断基準あり)
   重症度分類  食事・栄養、呼吸の評価スケールを用いていずれかが3以上を対象とする

 ◆確定診断に筋生検

 乳児や小児の場合、家族が筋力低下の症状に気付いて小児科を受診する場合もあれば、乳児健診などで指摘される場合もある。

 先天性ミオパチーの患者を診たことがない小児科医が多いため、筋力低下などの特徴から筋肉の病気が疑われた場合は、できるだけ早く専門の施設に紹介してもらったほうがよい。

 医療機関では、まず血液検査、CT,MRIなどを行い、他の病気の可能性がないかを確認する。先天性ミオパチーが疑われる場合には、筋生検を行い、顕微鏡で組織の異常を観察する。筋生検はさまざまな場所から実施するが、上腕二頭筋(二の腕)から採取することが多い。入院して、小児の場合は全身麻酔、成人では原則として局所麻酔をして、皮膚を2センチ前後切開して、その下にある筋肉を採取する。

セントラルコア病は筋線維の中心に酵素活性がなく果物の芯(コア)のように見える【一般社団法人先天性ミオパチーの会提供】

 ◆海外で臨床試験

 遺伝子解析の技術が進歩して、筋生検を行わずに診断に至るケースも出てきているが、先天性ミオパチーは原因がさまざまなので、組織診断と遺伝子診断を組み合わせて確定診断することが多い。病気のタイプが分かると、病気の今後の見通しができ、予防的に検査をするなどの計画を立てやすくなる。

 先天性ミオパチーの原因遺伝子が分かっているのはごく一部だが、最近、原因遺伝子の一つが新たに発見され話題になった。原因が分かると、そこから治療法が発見される可能性が出てくる。先天性ミオパチーの一つのタイプ、ミオチュプラー・ミオパチーに対しては、海外で遺伝子治療の臨床試験が始まっている。

 ◆気付かず悪化するケースも

 先天性ミオパチーは、乳児期から人工呼吸器のサポートが必要になる重症な場合もあれば、障害が軽度で学校に通い、働いて、自立した生活を送る人も少なくない。

 長年にわたり病状が変化しない場合もあるが、基本的には徐々に進んでいくことが多いため、病状が落ち着いていても経過観察は必要だ。特に、内臓に障害が出ると、ゆっくり変化するのでほとんど症状に現れず、気付いた時には、既にかなり悪化しているという場合がある。

 例えば慢性呼吸不全では、急性呼吸不全のように息苦しさを感じることはなく、最近、疲れやすい、朝すっきり目覚めない、朝起きたら頭が痛いなど呼吸の問題とは捉えにくい症状が出る。そのまま放置して、風邪をひいたり、ストレスがかかったりした時に、一気に悪化してしまう場合が少なからずあるという。

 ◆できること積み重ねる

 根治療法は確立されていないが、症状に応じて、筋力低下や関節のこわばり、側弯症などがあればリハビリテーションや手術、呼吸機能に問題があれば人工呼吸器のサポートなどが必要に応じて行われる。

 「いろいろな医療者に関わってもらって、できることを積み重ねていくことが大事。社会からも、医師からも理解されにくい病気なので、この病気を多く診ている医師に相談してほしい」と小牧センター長はアドバイスする。

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