「医」の最前線 希少疾患治療の最前線
早めに見つけ、紫外線完全ブロック
~色素性乾皮症・希少疾患その5~ 錦織千佳子・神戸大学大学院医学研究科内科系特命教授
指定難病数は11月1日現在、338に上る。「パーキンソン病」や「潰瘍性大腸炎」など有名人が患ったことから、一般に広く知られている病名もあるが、一度も聞いたことがないような病名も数多い。全体像が明らかな疾患はごくわずかで、未解決の課題も山積している。「希少疾患」に対する最新の治療方法や課題について紹介する。(取材・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)
錦織千佳子・神戸大学大学院医学研究科内科系特命教授
色素性乾皮症(XP)は、日光を浴びるなどして傷付いた遺伝子(DNA)の修復ができずに、皮膚の乾燥や色素沈着、皮膚がんを発症し、聴力障害、歩行障害などさまざまな神経症状が起きることもある病気だ。生後間もない時期に日光を浴びたことをきっかけに気付き、早ければ10歳くらいで皮膚がんが発生する。神戸大学大学院医学研究科内科系の錦織千佳子特命教授は「できるだけ早期に発見し、紫外線を完全にブロックすれば、皮膚がんを防ぐこともできます。日光を浴びた後に、赤く腫れたり、水膨れになったりするような症状が出た場合、早めに医療機関を受診することが大切」と話す。
◆紫外線で損傷したDNA修復できず
DNAの損傷は、さまざまな原因で日常的に起きているが、通常はそれを修復する仕組みが備わっているため、問題になることはない。ところが、色素性乾皮症では、紫外線によって傷付いたDNAの修復ができなくなる。このため、紫外線を浴びると皮膚にさまざまなトラブルを引き起こし、若いうちから皮膚がんを発症する。
「日本の患者数は500~600人とされていますが、診断を受けていない患者さんが埋もれているのではないかと思います。神経症状のために施設に入所している人の中に、原因がXPと分からず、見過ごされている人がいるかもしれません」
原因となる遺伝子は特定されているが、発症のメカニズムは未解明だ。両親ともに原因遺伝子を持っていた場合、4分の1の確率でXPの子どもが生まれる。
◆お宮参りの外出で
A~G群、V型の合計八つのタイプがあり、日本人に最も多いA群では、激しい皮膚症状に加えて、聴力障害、歩行障害などの神経症状を併発する。
最初に気付くのは、生後1カ月くらいでお宮参りや散歩などで子どもを初めて外に連れ出したとき。ほんの10分程度、日光を浴びただけで、顔や足の裏など日に当たった部分が激しく日焼けをして、水膨れができてしまう。
一方、神経症状は少しずつ進んでくる。乳幼児期から立つ、話すなどの発達のスピードがやや遅い傾向があり、学校に上がる頃になると、聴力障害のため補聴器が必要になる場合が多い。小学校の高学年から中学生くらいで、つまずきやすいなどの症状が出始め、次第に歩くことが難しくなることが多い。
「ここ数年、皮膚症状はあまり目立たず、40~50代になってから神経症状が出てきて、XPと分かるケースがぽつぽつと出てきています。今後は、こうしたケースが増えていくかもしれません」
色素性乾皮症のタイプ別特徴(錦織千佳子神戸大学大学院特命教授提供)
◆皮膚症状の写真を持参
気になる症状があれば、早めに皮膚科か小児科を受診することが重要だ。典型的な症例は、皮膚症状を診ただけで異常と分かるが、皮膚症状が落ち着いてから受診すると、問診でうまく伝わらず、診断が特定されずに、より広い概念である「光線過敏症」と片付けられて、それ以上の精査がなされないまま放置されることも少なくない。
「症状が出ているときの写真を撮ってきていただけると、非常にありがたい。日に当たると赤くなるといっても、どの程度のことを言っているのかが、分からないので、診断の助けになります」
問診や皮膚症状からXPが疑われる場合は、早めにXPの診療ができる医療機関を紹介してもらう。確定診断のためには、紫外線を当てたときの反応を見る光線テスト、皮膚の細胞を使ったDNAの修復テスト、血液検査による遺伝子診断などが必要になる。
「XPを専門的に診療する医療機関は限られるため、遠方から受診する患者さんも多い。初診の時にできる検査はすべて行うようにしています」
生後間もなくの外気浴で日光を浴び、赤く腫れたケース(錦織千佳子神戸大学大学院特命教授提供)
◆徹底した紫外線対策
XPと診断された場合、まず行うのは徹底した遮光だ。紫外線を完全に防ぐための防護服を用意し、窓ガラスに遮光フィルムを貼るなどの対策を採る。こうすることで、皮膚がんの発症は防げる。
「遮光せずに1年間、日光を浴び続けた結果、10歳で皮膚がんを発症した人がいました。XPの患者さんは、普通の人の数千倍皮膚がんが出やすいので、完璧な遮光が必要です。そのためには保育所や学校の協力が必要ですし、車の窓ガラスにもフィルムを貼らなければいけない。徹底的な遮光をするためにも、早期にはっきりと診断がつくことが重要です」
医療機関では、皮膚科、小児科、脳神経内科、耳鼻科、リハビリ科、眼科などがチームでXPの患者に対応していく。
「入院が長くなると、神経症状が進むことが分かっていますから、皮膚がんは早く見つけて小さく手術し、入院期間を短くするよう注意が必要です」
◆周囲の理解と協力が必要
XPは生まれて間もなく発症する場合が多いため、まずは親の役割が重要になる。日常生活の中で完全な遮光をするためには、周囲の協力が欠かせない。
「子どもが診断されたときは、大変にショックを受けますが、しばらくすると運命を受け止めて、対応していくようになる。子どものために遮光服を作り、保育所や小学校の窓ガラスに遮光フィルムを貼ってもらうよう交渉しにいく。皆さん本当によくやっていて、頭が下がります」
神経症状が軽い場合は、遮光して皮膚がんの発症を防ぐことさえできれば、普通に働けるが、その環境が整うかは、どれだけ周囲の理解と協力が得られるかにかかっている。
「地下で働いていたのにガラス張りの事務所に移動になった、プールの監視員ができないと学校担任を任せてもらえない、などのケースもあります。仕事はきちんとできるのに、遮光が必要というだけで、働けなくなるケースがあるのは残念でなりません。日光に当たることができない人がいるという社会的な理解が必要です」
病気の進行を抑える薬の研究も進んでいる。動物実験の段階では、XPのモデルマウスに紫外線を当て、皮膚症状や聴力障害が出てきても、症状を抑えられる方法が明らかになり、XPの進行を抑える治療法の実現が期待されている。
(2021/12/09 05:00)
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