こちら診察室 がんを知ろう

医療従事者や元患者が話す
~がん教育の現場から~ 第10回

 ◇ロールプレーイングで理解促進

  ロールプレーイングも重要です。例えば、「がんに対する誤解には何がありますか」と生徒の一人が問題提起すると、別の生徒が祖母から聞いたとして「焦げ目のある物をたくさん食べるとがんになる」とか、「がんは治らない病気と思っていた」などと、患者視点から発言してくれました。このようなやりとりを踏まえて、生徒同士で調べて発表していくことで、がんに対するだけでなく、健康全体への理解も深まります。

生徒同士で発表し合い、がんについて考える

生徒同士で発表し合い、がんについて考える

 また、不健康な生活、例えば、たばこの吸い過ぎをしている人の役を学校の先生に演じてもらい、「どのようにアプローチすれば生活習慣を改めさせられるか」という課題に取り組んでもらいました。

 「たばこ代は高く、何十年も吸い続ければ自動車が買える金額になる」

 「副流煙によって他人に迷惑をかけることにつながる」

 「たばこのくさい臭いは周りに嫌われる原因になる」

 「たばこの吸い過ぎは病気につながるし、それは自分の家族を悲しませることになる」

 「一緒に禁煙できるように良い方法を考えよう」

 これらの反応は、生徒たちから自発的に出てきます。

 ◇「死んでほしくない人がいる」

 南谷から考えやすくなるようなヒントを出すこともありますが、生徒たちの方から積極的にロールプレーイングを演じてくれることも多く、私も楽しんで手助けしています。授業の後、協力いただいた先生に、「どのようなアプローチに心を動かされたか」聞かせていただきます。「親身になってくれると心を動かされる」「家族を出されると弱い」など、反応はそれぞれですが、フィードバックを得られることで生徒たちの理解につながるのではないかと思います。

 最後に、授業後の生徒の感想を一つ紹介します。

 「がん教育の授業では、性別によっても、がんなどのかかりやすい病気が違うことを知りました。女子がかかりやすいがんは、もともと知ってはいたけど、なぜかかりやすいのかなどは勉強になりました。ロールプレーイングから学んだのは、たばこをやめられない人にどう考えさせるのか、自分も他人のことをどうやっていくのか、ということです。今後も考えていきたいと思います。自分の周りにも病気になってほしくない、死んでほしくない人がいるので、両親や友達といろいろなことを話し合いたいです」(了)

 南谷優成(みなみたに・まさなり)
 東京大学医学部付属病院・総合放射線腫瘍学講座特任助教
 2015年、東京大学医学部医学科卒業。放射線治療医としてがん患者の診療に当たるとともに、健康教育やがんと就労との関係を研究。がん教育などに積極的に取り組み、各地の学校でがん教育の授業を実施している。

 中川恵一(なかがわ・けいいち)
 東京大学医学部付属病院・総合放射線腫瘍学講座特任教授
 1960年、東京大学医学部放射線科医学教室入局。准教授、緩和ケア診療部長(兼任)などを経て2021年より現職。 著書は「自分を生ききる-日本のがん治療と死生観-」(養老孟司氏との共著)、「ビジュアル版がんの教科書」、「コロナとがん」(近著)など多数。 がんの啓蒙(けいもう)活動にも取り組んでいる。

    

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