話題

食べて加齢に負けない
~見直される薬膳~

 年を取れば膝が痛くなったり、よく眠れなかったり、夜中に何回もトイレに行ったりすることが多くなる。こうした症状を何とかしたいと薬やサプリメントに頼る傾向がある中で、中国の医学(中医学)の薬膳が見直されている。中医学と薬膳に関する本を出した石澤清美さんは「体に良い物をおいしく食べ、健康でいよう」と説く。

蒸し黒豆と長芋のサラダ

蒸し黒豆と長芋のサラダ

 ◇ベースは最古の医学書

 中医学のベースは中国最古の医学書とされる「黄帝内経(こうていだいけい)」で、中医学の歴史は古い。北京中医薬大学は、中国国立で中国医学教育のトップレベルに位置する。石澤さんは日本中医学院(旧・北京中医薬大学日本校)で学んだ。2日間、6教科に及ぶ中国主催の試験を受けて合格し、国際中医師となった。この資格があると、中国や台湾、米国の一部で中医師の看板を掲げて開業できるという。

 ◇1800年前から

 日本の伝統医療である漢方のベースは、明時代の中国から日本にもたらされた「本草綱目(ほんぞうこうもく)」にあるとされる。中国の漢方薬は、医療用約1000、一般用約4500に上る。風邪の引き始めなどに服用する葛根湯(かっこんとう)は1800年ほど前からあるという。一人ひとりの体調などに合わせて処方するのが、中国の漢方薬の特徴だ。

国際中医師の石澤清美さん

国際中医師の石澤清美さん

 ◇「薬食同源」

 料理研究家でもある石澤さんは「『薬食同源』という言葉があるように、まず食事によって自分の体を整える。きちんと食べなければ、いくら薬を飲んでも症状は治らない」と話す。

 中医学では、人体は五臓、つまり心臓・肺・脾臓(ひぞう)・肝臓・腎臓を中心に成り立つと考える。

「腎(腎臓)には、親からもらった生命力である『腎精』が宿る。この腎精が減少することで老いの症状が表れる」

 ◇かつては疑問に思った

 「薬膳は加齢に負けずに健康的な体を保つことに効果があるのだろうか?」。実は石澤さん自身も最初はそう感じたと言う。

 「食べることで体を温めたり、冷やしたりする。一体、どういうことなのか。だから、『えー?』と思う人の気持ちはよく分かる」

 石澤さんのアシスタントは冷え性で生理痛に悩んでいた。食事やお茶にシナモンやクローブなどのスパイスを振って食べると、生理痛が解消したという。石澤さんは「シナモンには体を温め、血をよく巡らせる効果がある」と話す。

 ハーブは使われる。ハーブなどを用いた「植物療法」は、英国、ドイツ、フランスでは保険の対象になっている。

 ◇命の源を補う食材

 命の源の腎精が減っているなら、それを補う食材の力を借りる。代表が豆類や、クルミやナッツなどの種実類だ。石澤さんは「特に、黒豆、黒ごま、クルミの三つが大切だ」と強調する。

 生薬には、効能分類を示す「性味帰経(せいみきけい)」理論がある。食物には生薬として使われるものが多く、この理論が当てはまる。腎に働き掛ける身近な食材としては、山芋、ブロッコリー、ニラ、シメジ、鶏のレバー、豚肉、羊肉などが挙げられる。

 ◇お薦め料理

 石澤さんのお薦め料理を二つ紹介する。足腰の筋肉強化や冷えによる月経の不調などに有効だ。

【蒸し黒豆と長芋のサラダ】
 材料(2人分)
 蒸し黒豆65g、長芋100g、むき甘栗3粒(50g)、ユズの皮の千切り・少量
 A ユズのしぼり汁(または酢)・小さじ1、マヨネーズ・大さじ2、オリーブ油・大さじ1、塩・少量
 作り方
 ① 長芋は皮をむき、1cm角に切る。甘栗は4~6等分に切る。
 ② ボウルにAを合わせ、①に蒸し黒豆を加えてあえる。器に盛ったらユズの皮を散らす。

ラムとシナモンのスープ

ラムとシナモンのスープ


【ラムとシナモンのスープ】
 材料(2人分)
 ラム焼き肉用(肩ロース)200g、長ネギ1本、パセリ(みじん切り)・大さじ2
 A ショウガ(薄切り)2枚、シナモンスティック・2分の1本、干しナツメ1個、酒50ml、塩・小さじ2分の1
 作り方
 ①長ネギは小口切りに。ラム肉は一口大に切る。
 ②鍋に①とA、水459mlを入れて中火にかける。煮立ったら弱火に。あくを取って煮汁が半分ほどになるまで約25分煮る。器に盛り、パセリを振る。

 石澤さんの著書は「60歳からの『老けない人』の漢方ごはん」(Gakken、1,650円)。(鈴木豊)

【関連記事】


新着トピックス