Dr.純子のメディカルサロン

魚食で認知症のリスク低下も
~重要な中年期の食生活~

 認知症が世界各国で深刻な問題となっています。慶応義塾大学予防医療センターの三村將教授によると、高齢者のうつ病は認知症のリスク因子となるため、その対策が重要ということです。加えて、魚をたくさん食べると同リスクが軽減されるとの研究結果もあり、予防策として実践してみてはいかがでしょうか。

(文 海原純子)

 ◇高齢者のうつに注意

 先日行われた第20回日本うつ病学会で講演した三村教授は、高齢者のうつ病と認知症との関係について取り上げました。異常なタンパク質が脳にたまって発症する「レビー小体型認知症」は、高頻度にうつ状態が併発していて、治療が難航するうつ病から移行する場合があるということです。認知症のリスクを減少させるためにもうつ状態の改善や予防が大事というわけですが、高齢者は基礎疾患を持ち、その治療ですでに薬物療法を受けているケースもあり、肝機能の低下なども考慮して薬の投与が行われるといいます。

 こうした薬物治療のほか、認知行動療法や対人関係療法も行われます。高齢になると前頭葉の機能低下により思考の柔軟性が失われる傾向があるので、適度な運動やコミュニティーへの参加などを通じ、脳を刺激したり、良好な人間関係をつくったりする必要性が指摘されています。

秋の味覚サンマ(イメージ)

秋の味覚サンマ(イメージ)

 ◇慶大が大規模調査

 さらに同教授により、中年期に魚を多く食べることが、高齢になってからの認知症のリスク軽減に役立つという研究結果の論文が紹介されました。(Journal of Alzheimer’s Disease79, 2021, 1091-1104)。魚食は認知症予防に効果があるといわれています。一方で、これまで発表されてきた論文のメタ分析(同じ内容を試した論文を集めて分析し直し、評価する方法)によると、全体的な認知症に対する効果はほとんどないか、あるいは有意ではないとされているそうです。

 ただ、こうした魚食と認知症に関する論文のほとんどは欧米で書かれたものです。もともと肉食が中心で、魚の摂取量が少ない地域です。そのためにこうした結果になった可能性が高く、慶大を中心としたグループでは、前向きの多目的コホート研究(JPHC Study=生活習慣と病気の関連を調べる大規模な疫学調査)の一環として、中年期における魚とPUFA(多価不飽和脂肪酸)の摂取と後年の認知症との関連について大規模な調査を行いました。

 ◇40~60代に積極摂取を

 調査対象は長野県の佐久地域の住民で、1990年時点で40~59歳の1万2219人が参加しました。その後、追跡調査への参加に同意した人が1995年(5年フォーローアップ調査)と2000年(10年目のフォローアップ調査)に包括的な食事評価とメンタルヘルススクリーニングを完了し、1127人(男性468人、女性659人)の分析が行われました。食事頻度調査は5年目と10年目の追跡調査の両方で使用され、147種類の食品(魚や貝類など)の摂取量を評価しています。

 その結果、中年期にサバなどPUFAが豊富なものを含め魚を積極的に摂取していた人々は、認知症のリスクが低下していることが観察されました。健康な脳機能を維持するためには中年期の食事が重要であり、将来の認知症予防に貢献する可能性があるとされています。

 40~60代は仕事が忙しく、食事の栄養バランスが悪くなったり時間も不規則になりがちだったりし、生活習慣病のリスクが高くなる時期です。こうした時期の食事内容はとても大事と言えるでしょう。これからの季節はサンマやサケがおいしくなります。魚を積極的に食べるとともに、うつ気分に陥らないように軽い運動などの気分転換も併せて行ってはどうかと思います。(了)

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